「タバコ天国」日本、受動喫煙法案見送り 海外メディアが政府の矛盾を指摘

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 3年後に開催が迫る東京オリンピック。日本にとって悩みのタネの一つがタバコ規制問題だ。国際オリンピック委員会(IOC)は通常、会場でのほぼ全面禁煙を求める。世界保健機関(WHO)の非伝染病予防の責任者も、日本は「タバコ天国」だという報道を認識しており、日本としてもそのような汚名は望んでいないはずだとコメントする(ワシントン・ポスト紙)。五輪会場以外にも全国的なルールづくりが急務だが、国内での議論は進んでいないのが現状だ。

◆禁煙に踏み切れない日本。海外の見方は?
 エコノミスト誌は22日付の記事で、今国会での『受動喫煙防止法案』の成立が断念されたことを伝えている。30平米以上のバーや飲食店などを全面禁煙にする法案だったが、選挙戦に大きな影響を持つタバコ農家組合や飲食業界からの反発が激しかったとの分析だ。

 同誌はタバコ業界への政府の不自然な態度を指摘する。政府は禁煙環境を推進しつつも世界第4位の規模の日本たばこ産業(JT)株を30%以上保有しており、「アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態」と矛盾を突く。

 香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙(18日付記事)は、法案不成立の背景として、天下りの影響があると見る。優れた政治家が大手企業で稼ぎの良いポストに就く「amakudari」という文化があり、政治家が自身の将来のために産業界に甘くなっていると指摘している。

◆途上国レベル?高い喫煙率と受動喫煙
 法案とは別に、日本社会は喫煙者を優遇しているという見方は以前からあった。ワシントン・ポスト紙は日本禁煙学会の作田学理事長のコメントとして、「日本の受動喫煙の状況は、発展途上国と同じレベル」(5月2日付記事)だと紹介している。病院出入り口のすぐそばで医療スタッフが喫煙するケースがあるなど、現状に疑問を呈する格好だ。

 エコノミスト誌は、日本の喫煙率が高いことを指摘する。日本の成人男性の約30%が喫煙者で、アメリカ・イギリスの1.5倍の水準だ。一つの原因として、欧米より圧倒的に安いタバコの国内価格が挙げられる。最も売れているセブンスターで1箱20本460円だが、アルジャジーラによるとタバコはオーストラリアで1箱18.64米ドル(約2090円)、ノルウェーで12.00米ドル(約1350円)で売られている。アメリカやイギリスでも一般には概ね1000円前後で販売されているようだ。

◆海外より先進的な日本ならではの取り組みも
 一方、海外より先進的な面もある。エコノミスト誌では、東京などの路上喫煙禁止条例を紹介している。海外では公園や鉄道駅付近に限定した条例はあるものの、屋外の路上全般を禁煙にする取り組みは珍しいようだ。JTの広報としても、「厳しい路上喫煙禁止条例があるため、海外よりルールが緩い認識はない」とサウスチャイナ・モーニングポスト紙に語る。

 このほか同紙は、無煙タバコのテスト市場として日本が選ばれていると報じる。iQOSの『ヒートスティック』やJTの『プルーム・テック』など、煙ではなく蒸気を出す電子タバコ製品を紹介し、従来の製品よりも大幅に害が少ないとしている。依然有害との報道も一部あるが、先進的な製品としての評価もあるようだ。

 オリンピックを控え、タバコをめぐる環境整備に海外も注目する。もはや国内だけの問題ではないと言えるだろう。2020年までにどういう形で決着するのか、さらに議論が必要なようだ。

Text by 青葉やまと