憲法9条の行方、海外メディアの関心は? 首相と国民の関係にそれぞれの見方

安倍首相

 今年は日本国憲法施行70年に当たる。理想の国家像を示した現行憲法は、戦後復興への道を歩み出した日本の拠り所だったが、時の経過と周辺環境の変化に伴い、現実にそぐわなくなっていることは否めない。改憲は必要という声も高まっているが、「戦争放棄」、「戦力不保持」、「交戦権の否認」を定めた9条の改正には依然として慎重な意見が多い。安倍首相は、3日に開かれた「公開改憲フォーラム」に、自衛隊の存在を憲法上に位置付けたいとしたビデオメッセージを送っており、海外メディアは、9条の行方に注目している。

◆国民は改憲にゴーサイン。でも9条はダメ
 イースト・アジア・フォーラムに寄稿した、米シンクタンク、スティムソンセンターの辰巳由紀主任研究員は、憲法改正に関し最も議論となるのは9条だとし、9条を変える、または再解釈することは、軍国主義に逆戻りする坂道に転げ落ちるきっかけになると考える人々がいると述べる。そして、ほとんどの日本人は一般的に憲法を時代に合わせて変えるという考えを受け入れるが、9条については過半数がこのままでよいと考えていると説明している。

 同氏の説明は、憲法記念日を前に報道各社が行った改憲に関する世論調査の結果とほぼ合致する。共同通信の調査では、改憲必要が60%、不要37%、NHKの調査では必要43%、不要34%、毎日新聞の調査では、改憲すべきと思う48%、思わない33%で、いずれも改憲賛成が反対を上回った。9条改正については、共同通信では必要49%、不要47%、NHKが必要25%、不要57%、毎日新聞がすべきと思う30%、思わない46%と、拮抗または反対が優勢となった。

◆地政学的リスクは明らか。今こそ9条改正議論を
 辰巳氏は、日本は核・ミサイル開発を続ける北朝鮮、自国の主張をどんどん強める中国、イスラム国のような国家以外からの脅威に直面しており、9条の維持を望む意見は、日本の国際的安全保障環境と、その時代遅れな国防へのアプローチを忘れがちだと述べる。そして、9条改正を求める人々は決して9条の精神を否定しているのではなく、世界が相互につながり、「平和な時」と「戦時」をはっきりと区別できない時代に9条を維持することで、安全保障上の脅威からうまく身を守ることができなくなることを問題視しているのだと説明する。

 同氏は、平和を愛するという日本の戦後のアイデンティティを保持しつつ、憲法を時代に合うものに変えていくための思慮深い議論が必要だとし、日本が置かれている安全保障環境を冷静に認識し、慎重に事を進めることがカギとなると述べている。

◆改正の中身が問題。行き過ぎれば首相には命取り?
 フォーリン・ポリシー誌(FP)は、安全保障関連法で集団的自衛権行使を認めたことなどで、「日本をより『普通の国』にすると言う意味では、すでに安倍首相のゴールは達成された」というアメリカン・エンタープライズ・インスティチュートのマイケル・オースティン氏の言葉を紹介している。

 米シンクタンク、カーネギー・エンダウメントのジム・ショフ氏は、安倍首相は安全保障上の変更を成文化するため、さらに十分なサポートを蓄える必要があり、改定後の9条に何が記されるか、どの程度日本の軍隊の足かせが外されるかがポイントとなってくるとFPに述べている。同誌は、日本国民はいまだに平和主義者だとし、首相が日本の新しい自由な戦略的展開を他国への干渉主義的アプローチに変えようと試みるのであれば、有権者の支持を得られず、首相の地位を失うこともあると警告している。

◆他の選択肢がない。国民のジレンマ
 一方、FPの意見に、ウェブ誌『クオーツ』は別の見方を示す。同誌は、9条改正は人気がなく、アベノミクスは劇的な成果を上げておらず、政府の政策は愛国・権威主義的といわれ、国民が首相の国内政策に不満を持っていると述べる。それにもかかわらず、支持率は継続して50%以上と、他国のリーダーからすれば夢のような状況だとし、結局、安倍首相以外に選択肢がないのが原因だと同誌は結論づけている。

 笹川平和財団のトビアス・ハリス氏は、国民は回転ドアのように次々と首相が変わった時代を覚えており、安定した政権を望んでいる説明する。早稲田大学の非常勤教授、マイケル・キューセック氏は、韓国や欧州の状況を見ていれば、まだ日本のほうがましと日本人は思うだろうとし、安倍政権に満足していなくても、今あるものをすべて投げ出して新しい誰かを首相にしようという気持ちにはならないのではないか、と述べている(クオーツ)。

 平和憲法を手放すのはいやだが、首相交代も困るという国民的ジレンマ。9条改正における政権と国民の考えに歩み寄りがない限り、当分解決されることはなさそうだ。

Text by 山川 真智子