経済協力しても北方領土返還、中国けん制は無理? 海外識者が見る日露関係

 16日、安倍首相とロシアのプーチン大統領との首脳会談が開かれた。戦後70年を過ぎ、ついに平和条約締結、北方領土返還への道が開けるかと期待されたが、発表されたのは日露の経済協力に関する事柄ばかりだった。まずは経済協力で両国関係を改善し、平和条約、領土返還につなげるという首相の考え方に対し、ロシアに領土を手放す気はなく、経済協力でも日本の思惑通りには全くならない、という辛口意見が海外から出ている。

◆日露関係改善のため、ロシアが領土を手放すことはない
 そもそも、一部の海外識者やメディアは、ロシアが領土を今日本に渡す理由がないと見ている。ディプロマット誌は、北方領土は第二次大戦の正当な戦利品であり、その主権はソ連を引き継いだロシアにあるとプーチン大統領は認識していると述べている。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、ロシアの世論調査では平和条約締結よりも島々を維持し続けることのほうが大切だと見る人が多いという結果が出ており、国民感情からしても日本に島を譲り渡すことは簡単ではない。

 ユーラシア・レビューに寄稿したニューデリーのジャーミア・ミリア・イスラーミア大学Center for Peace and Conflict Resolutionの客員教授、アニタ・インダー・シン氏も、これまでプーチン大統領は安倍首相との会談で、いくども島を返すつもりはないと述べたと指摘し、ロシアのように世界に影響力を持ちたい国家が、ただ政治的、経済的な結びつきのために領土を譲ることはないと断言する。4島ではなく2島返還でもよいという考えが日本にはあるが、シン氏は2島さえも難しいとしている。

 千島列島がロシアにとって地政学的に重要なことも返還が困難な理由だ。極東地域は、ロシアの領土のほぼ40%を占めており、これによりロシアはアジアの一部でもあり、グローバルパワーであることを世界に知らしめることができる、とシン氏は言う。また、千島列島はロシアにとっては太平洋への入り口でもあり、ウラジオストクに拠点を置くロシア海軍の太平洋艦隊には要所だ。ここをアメリカの同盟国日本に渡すことは、米海軍の侵入を容易にすることにもつながり、ロシアとしては日本に渡して得るものはない、とシン氏は見ている。

◆対中けん制も無理。中露の結びつきは日露以上
 ディプロマット誌は、安倍首相にとって、領土返還以外のロシアとの経済協力の目的は、対中けん制だと見ている。しかし、日本がアメリカの同盟国である限りは、ロシアとの戦略的パートナー関係は不可能だと指摘する。

 シン氏も、経済協力で中露関係を弱めることが出来ると考えるのは間違っていると指摘。すでに中露貿易は2015年の最初の10ヶ月間で559億ドル(約6.5兆円)に達しており、同時期の日露間の177億ドル(約2兆円)を大きく上回る。さらに対ロ制裁をする西側への挑戦として始まったものの、中露は大型の資源契約を締結し、軍事演習も行っており、アジアにおけるアメリカ優位に対抗するという共通の利益により、その経済的結びつきが支えられているとも述べている。

◆交渉継続は日本に不利。会談は失敗か
 ディプロマット誌は、そもそもプーチン大統領が平和条約や領土問題への協議に前向きだった理由は、クリミア併合後の西側による経済制裁を解除させたかったからだと述べる。ところが、ドナルド・トランプ氏が時期大統領になれば、話は違ってくるとしている。ロシア寄りのトランプ氏が、対ロ制裁を解除すれば、欧州、日本も追随することはほぼ確かだ。そうなればプーチン大統領にとって、日本と交渉する必要性は薄れるし、日本は交渉の切り札の一つを失うことになる。

 結局のところ、日露の今回の大取引が、平和条約締結、領土問題解決、相互に利益のある「力のバランス」の達成へとつながるというのは甘い見方で、物や金の流れは起こっても、安全保障や防衛の面では限られた成果になると同誌は見ている。

 同誌はまた、今回の交渉で日本は一発解決を望んでいたのに、ロシアに形勢逆転されてしまったと述べる。今後は交渉のコントロールを相手に許し、取り消し不能のコミットメントで罠にはまる危険性もある、と指摘している。一方シン氏は、領土問題でロシアが弱みを見せることはないとし、安倍首相はいつになったらそれが分かるのか、と厳しい意見を述べている。

Text by 山川 真智子