日本のプルトニウムも核安保サミットの議題にするべき? 海外は何を懸念しているのか?

 日本時間の1~2日、米ワシントンで「核セキュリティーサミット」が開催される。オバマ大統領が提唱し2010年に始まったもので、2年に1度開催されてきた。今年は第4回にして最後の開催となる。核テロを防止するための、さまざまな国際的取り組みが議題となる。安倍首相や、中国の習近平国家主席など、50人以上の国家首脳や機関代表が参加する予定だ。日本も行っている核燃料の再処理については、このサミットでは議題とならないそうだが、核セキュリティーの観点からも、核不拡散の観点からも、専門家や米高官、米メディアなどの注目を引き続き集めている。どのような点が問題視されているのか。

◆オバマ大統領が取り組んできた核セキュリティー、不拡散
 米大統領選の共和党指名候補の最有力となっているドナルド・トランプ氏は先日、大統領就任のあかつきには日本、韓国の核武装を容認すると発言した。オバマ大統領の就任以来の「核兵器のない世界」を求める取り組みとは、まさに逆行するものだ。

 インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙(INYT)は、核イニシアチブはオバマ大統領にとって代名詞的な問題であり続けている、と語る。2008年の選挙戦で訴えた目標の1つであり、大統領が就任後わずか1年にしてノーベル平和賞を受賞した理由の一部である、と語っている。

 同紙は、「今回のサミット開催に合わせ、オバマ大統領がこの方面で積み上げてきた実績について、早くもレガシーのような扱いをして総括に入っている」、「核セキュリティーの点では、アメリカ主導の取り組みにもかかわらず、テロリストが小型核爆弾やダーティーボムを作るのに使用できる大量の核物質が盗まれる可能性が依然非常に高いままだ」、と語っている。

 反対に、達成事項としては、ウクライナやチリなど12ヶ国から、核爆弾の主材料になる高濃縮ウランの民間(非軍事)での貯蔵を放棄させることに成功した、と伝えている。

 けれどもこの進展にもかかわらず、いくつかの国は、アメリカが促進する保護措置をためらっているか、新たな貯蔵を積み上げている、と同紙は語る。そして、パキスタン、中国、インド、日本は、プルトニウムを得るための新たな施設を計画中しており、それにより核爆弾の材料の世界貯蔵量が増えることになる、と伝えている。

 またINYTは、オバマ大統領はまもなく大きな達成を発表すると予想されていると伝えるが、その達成というのが、日本から核爆弾およそ40発分相当の高濃縮ウランと分離プルトニウムを取り去ったことだというのだ。これは、朝日新聞によると、日本が米英仏から購入し、日本原子力研究開発機構の実験施設で使われていたもので、計500キロ超だという。前回の核セキュリティーサミットで、日米首脳がアメリカへの引き渡しで合意していたものだ。

 このように、INYTは日本のプルトニウム保有などについて、核セキュリティーの観点から触れていた。

◆デリケートすぎて核セキュリティーサミットでは触れられない? 日本の再処理政策
 USAトゥデイ紙は、今回のサミットで扱われる予定のテーマと、重要なのに扱われない問題についてまとめている。その中で、今回のサミットで見過ごされる点の1つとして、核燃料の再処理によるプルトニウムの分離に対し、国際的な監視を強める動きが含まれていないことを挙げている。主に日本が念頭にあるようだ。

 核兵器廃絶の国際運動「グローバル・ゼロ」の共同創始者ブルース・ブレア氏は同紙で、日本には現在、国内に民間保有のプルトニウムが10トンあり、これは核爆弾2500発を製造するのに十分な量だ、と語っている。しかしこの問題は、外交的理由のために、サミットの議題に乗らない予定だ、と同紙は語っている。

 日本が仮に、北朝鮮を抑止する必要があると決めたならば、そのプルトニウムを核兵器の原料に転換し、核爆弾を製造することもできる、と同紙は語る。ブレア氏は、(サミットにおいて)そのことについて日本と協議しないのは、これが(核セキュリティーの問題ではなく)核不拡散の問題だからだ、と考えているようである。この問題について協議することは、あまりにデリケートで、「日本が核武装しようとしているという懸念のあからさまな表現になるだろう」と氏は語っている。

 中国であれば、この点について公然と日本を批判するだろうが、アメリカは、少なくとも政府見解としては、日米原子力協定にのっとり、核燃料をリサイクルする日本の方針に異議を唱えていない。

◆日本、中国、韓国の間に再処理によるプルトニウム獲得競争の危険?
 米核不拡散政策研究センターのヘンリー・ソコルスキー理事は、「原子力科学者会報」ウェブサイトの論評で、日本、中国、韓国が、使用済み核燃料の再処理によって、プルトニウムを競い合ってため込む事態になることを懸念している。ちなみに、「原子力科学者会報」は「世界終末時計」を発表している組織だ。同氏は、今回のサミットで日中韓の商用プルトニウム計画が議題にならないことについて、残念なことだと語っている。

 氏の観点は核拡散の問題にある。日本に関しては、現在、国内に約11トンのプルトニウムを保有しているが、これはざっと2000発の核爆弾を製造するのに十分な量だ、と語っている。さらに海外に37トンを保管していることも付言している。また、2018年後半に日米原子力協定が自動的に更新された後に、六ヶ所村で、何十年も計画が遅れている大規模な民間の再処理工場を開くつもりだ、としている。この工場では年間に核弾頭1500発分以上のプルトニウムを製造することになる、と語っている。

 韓国では、1月の北朝鮮の核実験を受けて、核武装論が持ち上がっている。ソコルスキー氏によると、実験後まもなく、韓国国会の与党・セヌリ党の院内代表が朴槿恵大統領に対して、原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを抽出することを検討するよう、強く主張したという。

 けれども韓国にとってこれは困難だ。日本は、日米原子力協定によって、アメリカで製造された核燃料を使用後に再処理し、プルトニウムを抽出することが認められているが、米韓原子力協定ではこれは認められていない。韓ハンギョレ紙によると、昨年、5年近い交渉の末、42年ぶりに協定を結びなおしたが、新協定でもやはり認められなかった。ソコルスキー氏は、日本には認められているのに、韓国には認められていないため、韓国政府は感情を害している、と語っている。

 ソコルスキー氏は中国については、日本がプルトニウムを貯蔵し続け、また(再処理工場での)製造を計画していることに繰り返し不平を言っているが、これには言行一致でないところがあるとの旨を語る。というのも、中国も、六ヶ所と同様の規模の再処理工場を計画中だからだ。

 このことは軍事的に意義深い、と同氏は語る。現在、中国が保有する核兵器はわずか200~400発だと考えられており、余剰プルトニウムの貯蔵量も、数百発分を製造できるだけの量だ、と氏は述べる。また中国には、稼働中の兵器用プルトニウム生産用原子炉がない、と伝えている。現在の中国には、民間プルトニウム計画を、軍事用の予備策として使用する意図は、今のところないだろうが、もし地域の緊張が高まった場合、これが変化しないだろうか。そうならないように期待するほかない、と同氏は語っている。

Text by 田所秀徳