日中韓首脳会談:韓国は日本の謝罪に期待 一方、中国が歴史問題よりも重視するものとは

 日中韓首脳会談が11月1日に行われることが、28日、韓国大統領府からようやく正式に発表された。日韓首脳会談も、曲折の末、2日の開催で合意を見た。各国がそれぞれ首脳会談に期待するところをめぐって、水面下ではすでにせめぎ合いが始まっているもようだ。

◆3年半ぶりの日中韓首脳会談。日韓首脳会談は現政権では初めて
 日中韓首脳会談は、2008年から毎年、3国の持ち回りで開催されていた。最後に開催されたのは2012年5月北京。2013年に韓国で行われるはずだった会談は、前年の尖閣諸島国有化の影響で中国が参加を拒み、中止となった。今回の開催は3年半ぶりとなる。

 日韓首脳会談も、最後に開催されたのは、野田政権下の2012年5月のことだった。安倍政権下、韓国の朴政権下では一度も開かれていない。

 朴大統領はこれまで、慰安婦問題での進展を日韓首脳会談開催の条件としてきた。しかし、日韓関係の改善を求めるアメリカの声に押されるなどして、今回の開催に至ったもよう。韓国紙ハンギョレによれば、韓国側は今回の会談において、引き続き日本の謝罪発言を求めているが、(賠償などの)具体的措置は求めないため、「事実上、要件を大幅に下げた状態」であるという。

◆韓国・朴大統領にとっては、日本から慰安婦問題での謝罪を引き出すことが最重要
 朴政権にとっては、日韓首脳会談で日本の謝罪発言を引き出せるかどうかが、最大の関心事となっているようだ。ハンギョレは、安倍首相が今回の首脳会談でどのような態度を示すかによって、朴政権が過去2年8ヶ月間進めてきた対日外交の成否が決まるからだ、とその背景を説明している。

 韓国大統領府は26日、日韓首脳会談を2日に開催することを日本側に提案しており、返答を待っていると発表した。こうした発表は外交的には異例のもので、通常は、両国の合意を経て、そろって発表が行われる。

 これについてハンギョレは、韓国政府は、慰安婦問題における日本の前向きな態度(謝罪)を引き出すための背水の陣を敷いた、と論評した。

 だがハンギョレによれば、これに先立って、朴大統領はすでに外交戦で(謝罪を引き出す上での)致命的なミスを犯しているという。先日の訪米中、「安倍首相と首脳会談を開くことができると考えている」と述べたことがそれだ。この発言により、日韓首脳会談の開催が既成事実化され、日本側に態度を選ぶ余地ができた、との旨である。つまり、謝罪を開催の前提としなくても良くなった、ということだろう。

 もっとも、韓国メディアの報道を見るかぎり、韓国国内でも、今回の会談で安倍首相が謝罪を行うことへの期待感は必ずしも高くないようだ。聯合ニュースは、今回は会談を実施することがまず重要で、成果は無理に追わない方がよい、という旨の専門家のコメントを紹介している。さらにその専門家は、今回の日韓首脳会談は日中韓首脳会談のホスト国という立場上行うもので、正式な会談ではなく略式会談であることを政府が説明して世論を納得させるべきだ、との旨を語っている。

◆韓国と共闘? 中国も日本に対して歴史問題でプレッシャー
 日中韓首脳会談に先立って、中国も日本に対し、歴史問題でプレッシャーをかけてきている。

 27日に北京で開かれたシンポジウムで、中国の王毅外相は日本に、中国、韓国との円滑な協力を確実にするため、歴史を直視するよう促した、と中国国営通信社・中国新聞社の英語ウェブサイトEcns.cnは伝えた。王外相は「歴史を直視することが、より良い未来を作り出す前提条件だ」、「歴史問題は中国、日本、韓国にとって避けられない問題。日本が中国、韓国と協力し、3国間の協力を軌道に戻せるよう、過去の過ちを心から反省し、不名誉な歴史から決別するよう期待する」と語ったという。

 ロイターによると、王外相は「もし歴史問題が適切に処理されるなら、3国関係は進展しうる。そうでなければ、確実に失速する」と語ったという。Ecns.cnは、中国社会科学院日本研究所の楊伯江副所長が「王外相は日中韓3国の関係の中心的弱点を指摘した。3国の協力関係を回復するためには、歴史を直視することが基本的かつ重要だ」と環球時報に語ったことを引用している。

 産経ニュースは、王外相の発言について、「歴史問題で中韓共闘を示唆」したと分析した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、中国政府は日本政府との間の歴史問題で、韓国政府と共同戦線を張ることを求めている、と語っている。

◆日中韓首脳会談によって日中韓FTA協議に弾みをつけたい中国
 だが、今回の日中韓首脳会談で中国が最も期待していることは、歴史問題の解決そのものではなく、3国間の関係強化を通じて、自国の経済問題を解決することかもしれない。

 WSJは、アナリストの中には、とりわけ中国と日本の指導者が自国の経済成長を支える新たな方法を探し求めている今、日中韓政府はおそらく、活気のない経済状況から、首脳会談の実施に駆り立てられたのだろうと考える者もいる、と伝えた。

 Ecns.cnによると、王外相は27日、日中韓の自由貿易地帯をできるかぎり早期に設立できるよう中国は期待していると語った。これは、2012年から協議が続けられている日中韓自由貿易協定(FTA)について言及したものだ。

 中国国営新華社通信は、日中韓首脳会談は、FTAの協議を進展させるための、新たな、非常に貴重な好機となる、と語っている。関係が改善しつつある今こそ、交渉を加速すべきだ、と論陣を張っているが、これは中国共産党政府の意向を踏まえたものだろう。また、首脳会談によって確実に、協議がさらに加速されるだろう、と語る。中韓FTAが6月に署名されたことも、3国FTAへの後押しだとみなされている、と語る。

 30日には韓国ソウルで、首脳会談に先立って、日中韓の経済貿易相会合が開かれる。こちらもまた2012年5月以来となる。日中韓FTAなどについて話し合う予定だ。

 新華社は、日中韓FTAがいかに有効なものであるかを熱弁している。フィナンシャル・タイムズ紙を引用して、3国FTAが発効されれば、中国のGDPは2.9%、日本は0.5%、韓国は3.1%引き上げられる、との試算を伝えている。GDPの規模を考えれば、中国が一番恩恵を受けることになりそうだ。

Text by 田所秀徳