“安保法制の必要性をアピール”中国ガス田公表の理由、海外メディアが推測

 政府は21日の閣議で、2015年版「防衛白書」を了承した。白書では中国について、海洋問題で「高圧的とも言える対応を継続させ、自らの一方的な主張を妥協なく実現しようとする姿勢を示している」と、強い懸念が表明された。また22日、政府は、中国が東シナ海でガス田開発を進めている証拠として、中国の海洋プラットホーム計16基の航空写真を地図とともに公表した。これらの動きについて、一部の海外メディアでは、中国の脅威を強調する狙いがあるとの見方が示されている。安保法案の必要性を訴えるために、国内に向けたアピール、または南シナ海問題のように、広く国際社会に向けたアピールとの見方があるようだ。

◆中国のプラットホームには資源問題よりも軍事面での懸念がある?
 東シナ海での中国のガス田開発について、菅義偉官房長官は22日の記者会見で、「中国が一方的に資源開発をすることは極めて遺憾だ」と批判した。

 東シナ海では、日中の排他的経済水域の境界がいまだ確定されていない。日本側は、日中中間線を基にした境界画定を行うべきとの立場だ。当初、中国がこの中間線付近でガス田開発を始めたため、日本の資源まで奪われかねないとして、日本からの抗議が行われた。交渉の末、2008年には、共同開発を行うことで合意したが、その後の日中関係の悪化とともに、その実現に向けた交渉は中断している。

 しかし現在、そのこと以上に政府の関心を引いているのは、中国のプラットホームが軍事活用される可能性があるという点かもしれない。中谷元防衛相は10日、衆院平和安全法制特別委員会で、「プラットホームにレーダーを配備する可能性がある。空中偵察などのためヘリコプターや無人機の活動拠点として活用する可能性もある」と語ったという(読売新聞7月10日)。

 また、防衛白書には当初、東シナ海での中国のガス田開発についての記述はほとんどなかったが、7日の自民党国防部会でその点が問題視され、了承が見送られた経緯がある。

◆安保法案の必要性を国民に納得させるため、中国の脅威を強調している?
 AP通信は、内閣、与党は、安保法案の必要性を国民に納得させるために、防衛白書で中国の脅威を強調したという見方を強く示唆している。

 自民党国防部会の要求に応じて、白書では、東シナ海での中国のガス田開発に特に注目している、と記事は語る。その要求のために、白書の発表が10日ほど遅らされた、と伝えている。

 連立与党が成立を推進している安保法案については、大いに異論のあるものだとしている。多くの日本人は、第2次世界大戦の敗北という苦い記憶のために、自衛隊の役割の拡大に慎重だ、としている。

 ブルームバーグは、プラットホームの写真公表に関して、同じような見方があることを紹介している。安倍首相はこの写真を用いて、安保法案の必要性を有権者に納得させようとしている、とのテンプル大学ジャパンキャンパスのアジア研究学科ディレクター、ジェフリー・キングストン教授のコメントを伝えている。同教授によれば、「安倍政権が行おうとしているのは、安保法案の可決がまさに必要だと、皆がにわかに悟るよう、公衆の不安を生じさせること」だという。

◆日中間で現在繰り広げられている応酬
 一方、ロイターは、そのような踏み込み方をせず、日中双方の主張や言動を並べて伝えた。防衛白書についてと、写真の公表についての2つの記事があるが、それぞれのタイトルである「中国は日本の外交政策を『裏表がある』と呼ぶ」「中国、日本の東シナ海の写真は対立を引き起こすと語る」が示すように、どちらかといえば中国側の反応に重点を置いて報じている。

 記事によると、中国政府は白書について、「中国の軍事的脅威」を誇張しており、日中間の緊張をかき立てるもので、誤った印象を与える、悪意のあるものだと評したという。またもう一方の記事で、日本による写真の公表について、中国外務省は「両国の対立を引き起こすものであり、東シナ海の状況の処理と、両国関係の改善にとって、何ら建設的でない」と発表したと伝えている。

 記事の伝え方を見るかぎり、まさに中国が主張するように、日本の言動をきっかけとして、対立がかき立てられているように見える。とはいえ、記事がそのように言明しているわけではない。

◆国際社会に向けたアピールとしては十分な説得力がない?
 ブルームバーグでは、写真の公表は国内向けのプロパガンダだという見方が紹介されていたが、ウェブ誌ディプロマットのある記事は、国際社会に向けたアピールとして捉えている。その上で、中国の脅威をアピールするために、プラットホームを持ち出すのは、見当違いのやり方だと断じている。南シナ海における中国の人工島建設をめぐっては、フィリピンは情報公開によって、国際社会からの支持を勝ち得た。日本も同じようにしたいのかもしれないが、プラットホームでは、憤慨を引き起こすほどのものはない、と記事は語る。

 その理由として記事がまず挙げるのは、プラットホームは全て、日中中間線の中国側にあるという点である。日本は中間線での境界画定を主張しており、その通りに運んだとすれば、中国の活動は、争われていない海域でのこととなる、と記事は語る。日本の埋蔵資源が脅かされるという話に関しては、正当な批判だと記事も認めている。けれども、プラットホームが東シナ海の危険性を高めるものだと日本が表現しようとするのは、見当違いだとしている。

 中谷防衛相の発言に見られる、軍事活用されるかもしれないという危惧に関しては、いささかこじつけであり、「脅威」の説明としては説得力がないものだ、と断じている。記事の主張を要約すると、中国にはプラットホームを軍事活用するメリットが少ないからだ、ということになるが、その説得力のある根拠が記事に示されているとは言い難い。

写真出典:外務省ホームページ

Text by 田所秀徳