日韓式典に両首脳が出席 対日姿勢を転換する韓国 日中関係改善、米の圧力が背景か

 日韓国交正常化50周年に合わせ、21日に日本で日韓外相会談が行われ、日韓基本条約の署名日にあたる22日には、日本と韓国でそれぞれ記念行事が行われた。当初、日韓両首脳は記念行事への出席を見合わせるとの意向が報じられていたが、両首脳とも出席し、スピーチを行った。日韓関係はかつてなく冷え切っていると言われるなか、関係改善に転じるきっかけとなったのか。また今後、近いうちに、安倍首相と朴大統領の首脳会談は実現するのだろうか。

◆外相会談の成果としてロイターが着目したのは
 韓国の外相としては4年ぶりに日本を訪問した尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は21日、岸田文雄外相と会談した。この会談での最大の成果とも言えるのが、「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産への登録について、両国の歩み寄りでめどが立ったことだろう。国内および韓国メディアでは大きく取り上げられているが、欧米メディアでは、この外相会談を扱ったニュースでもあまり取り上げられていない。

 代わりに、ロイターがこの外相会談で最も注目したのは、年内(の早期)に日中韓の3ヶ国首脳会談の開催を目指すことで合意した点だ。日中韓首脳会談が実現した場合、日韓の2ヶ国首脳会談も「自然な形で開催されるのは間違いない」との見通しを、駐韓日本大使の別所浩郎氏が毎日新聞(20日付)のインタビューで語っている。ロイターはこれに言及。また日本は、韓国と同様、中国とも、島の領有権問題、歴史問題を抱えているが、昨年に日中首脳会談が実現して以降、緊張緩和が生じていると指摘する。日韓においても、首脳会談こそが実質的な関係改善のスタートになるとの見方だろう。

 外相会談について、中央日報は、実質的な合意を導出するより、韓日関係改善の象徴的な意味に重点が置かれた、と論評した。同紙は、日韓両首脳の国交正常化50周年記念行事への出席についても、同様だと見ている。ロイターもまた、両国は記念行事への出席を関係改善の象徴的一歩と見なしている、と語っている。

◆韓国は日本に対して方向転換中?
 ブルームバーグ、AP通信は、外相会談の具体的な中身よりも、韓国を取り巻く状況や、両国の国内世論の移り変わりなど、広く背景に着目している。

 日本に対する姿勢のあり方を見直させるような状況が韓国側にあることを、ブルームバーグは伝える。筆頭に挙げられているものは、外交面での危機感だ。日本は中国との関係改善を進めており、またアメリカとはより密接な関係を築きつつある。米政府が日韓関係を分断させている歴史問題にうんざりしている様子が見て取れる、とも語っている。こういった危機感があることは、最近、韓国メディアではよく報じられていたが、欧米メディアではまだ比較的珍しいようだ。

「韓国は日本に関して、はっきりと方向転換をしようとしています」ソウル大学校日本研究所の朴喆煕(パク・チョルヒ)所長はブルームバーグにこのように語っている。「韓国は、日中関係が改善し始めているときに、韓国が後れを取るわけにはいかないとの見解にも達しています」

 このような「方向転換」の顕著な例としては、毎日新聞のインタビューで柳興洙(ユ・フンス)駐日韓国大使が、慰安婦問題の解決は首脳会談開催の「前提ではない」と明言したことが挙げられるのではないだろうか。朴大統領はかねてより、慰安婦問題の解決なくして、首脳会談はありえない、との見解を公言していた。

◆日韓関係の改善は果たして始まるのか
 現在の日韓関係の最大の問題は慰安婦問題だと、あらゆる韓国メディア、そして多くの欧米メディアが指摘する。外相会談では慰安婦問題について、突っ込んだ話し合いが行われると予測した欧米メディアが多かったが、お互いに、これまで通りの主張を繰り返しただけで、重要な進展はなかったようだ(ロイター、聯合ニュース)。今回は関係改善ムードの醸成が重視されたのだろう。

 これを機会として日韓関係が改善に向かうことへ期待感を示す韓国メディアは少なくない。中央日報は、史上最悪という韓日関係にもかかわらず、両首脳が記念行事に出席することにしたのは良い決定であり、韓日関係の梗塞を解く転機になると期待する、とした。

 日本で行われた記念行事では、朴大統領のメッセージが読み上げられた。「歴史問題という重荷を、和解と共生の心を持って下ろしていくことが大切だ。両国がそうしたスタートを示すとき、50周年の今年は韓日両国が新たな未来を共に切り開く元年になるはずだ」というものだった(時事ドットコム)。

 また韓国で行われた記念行事では、朴大統領はスピーチで「国交正常化50周年の今年を、両国が新たな協力と共栄の未来を目指して共に歩んでいくことのできる転換点にすべきだ」「政府が両国の国民の心を一つにまとめ、懸案を解決していかなければならない」「最大の障害である歴史問題という重荷を、和解と共生の心で降ろせるようにすることが重要だ」などと語った(NHK)。

 日本側の譲歩を促しつつも、自国側も、国民の反日感情をあおるだけでなく、まとめあげる努力をすると表明した点では、これまでの朴大統領のかたくなな姿勢と、そこから生じた停滞を考えれば、前進と言えるかもしれない。しかし、韓国側が今後どれほどの譲歩を示すのかは、今のところ不明だ。

Text by NewSphere 編集部