東、南シナ海問題に“西欧巻き込むな” G7など多国間連携進める日本、中国メディア批判

 先週開かれた先進7ヶ国(G7)外相会合で、東シナ海、南シナ海での中国の振る舞いを念頭に、「威嚇や力による権利主張に強く反対する」などとした「海洋安全保障に関する外相宣言」が採択された。中国国営新華社通信は、中国政府および共産党の見解にのっとった報道をすることで知られているが、当然、この宣言に反発を示した。しかしその方向性は、宣言の内容よりも、宣言の原動力となった日本の行動を問題視するというものだった。

◆中国の一方的な振る舞いを非難する宣言。中国は対日批判に話をすり替え?
 宣言は15日発表された。宣言には、「東シナ海および南シナ海の状況を引き続き注視し、大規模埋め立てを含む、現状を変更し緊張を高めるあらゆる一方的行動を懸念している」、「威嚇、威圧、実力の行使により、海洋および領土の権利主張を押しつけるいかなる試みにも強く反対する」といった文言が含まれる。名指しはされていないが、中国を非難する内容であることは明らかだ。

 中国国営テレビ局CCTVは、G7は、経済問題に焦点を置いた国家連合体としてよく知られているが、海洋安全保障に関する宣言を一方的に採択したことは、40年近い歴史の中でも先例がないものだ、と伝える。

 新華社、CCTVは、日本がこの宣言の推進者となったことを中心に論じた。日本が、自国の利益に基づく関心にG7の他の国を巻き込んだ、というスタンスで対日批判を繰り広げている。日本と他国の温度差を強調する作戦とも見受けられる。日本と欧米諸国の足並みがそろうことを、中国は特に警戒しているようである。また、日本が南シナ海への関与を強めていることは、中国にとって、厄介なものになりつつあるようだ。

◆日本はG7を自国のために利用している、と中国
 新華社の論評記事は、日本はG7のような多国間の発言の場を利用して、南シナ海問題に干渉し、またもや、不適当な時と場所で、賢明でない行動を起こしている、との批判から入る。昨年のG7サミットにおいても、日本は、中国への圧力を強めるために、反中国の議題を売り込もうと熱心に試みていた、としている。

 CCTVは、日本は近年、自国だけに当てはまる懸念を、西欧諸国の助けを借りて大げさにアピールするために、G7の議題に押し込むよう常に試み続けている、と語る。昨年のG7サミットの直前には、安倍首相は、日本は国際法とルールの守護者であると同時に、中国にいじめられている被害者であるというイメージを作り出そうとし、国際的な場で、絶えず中国に汚名を着せるという土台作りをたくさん行った、と語る。

 新華社は、日本政府は、南シナ海での領有権問題で中国に対する圧力を強めるために、今後数年間、この問題を議題にし続けることに大いに関心を抱いている、と語る。

◆中国が考える、日本が南シナ海問題に関与する理由とは?
 新華社は、日本が南シナ海問題に「干渉する」理由について、一部には、中国の注意とリソースを、東シナ海の尖閣問題からそらすことを狙いとしている、と分析する。

 また、戦時の残虐行為を謝罪しようとしない日本の態度と、終戦70周年を記念する安倍首相の談話に対して、世界の注目が集まりつつあるが、そこから注意を引き離すことも意図している、と語る。

 日本政府がG7という発言の場を、自分勝手な利益と目的に役立つ道具として利用したことは、恥ずべきことである、と新華社は断じている。南シナ海問題に国際的な注目が集まることを嫌がり、日本だけの問題だと矮小化する意図があるのかもしれない。

 CCTVは、宣言には、東シナ海および南シナ海問題でより大きな役割を果たしたいという日本の野心が表れている、と語っている。

◆南沙諸島埋め立てに関しては聞く耳持たず
 新華社は、日本の取り組みは、緊張をかき立て、地域の安定を危うくするだけのものだろう、としている。中国が関係国と、友好的な交渉によって、海の管轄権問題を平和的に解決するための取り組みを強化している現在、それは特に不適切で、無分別に見える、とにべもない。

 しかし、宣言で非難されていた、一方的な行動の最たる例といえる南沙(スプラトリー)諸島の埋め立てについては、完全に中国の主権の範囲内でのことであり、いかなる国にも悪影響を及ぼさず、また標的にもしていないし、国際的な海路や漁場を脅かすものではない、と公式見解を語るばかりだ。中国は、南シナ海の平和と安定の揺るぎない支持者であり、そこでの建造活動は正当で適法なものだ、と語り、対話の可能性はまったく見せない。フィリピンなどは埋め立てを強く非難している。

 CCTVは、宣言が採択されたのは、日本の政治的意図に基づく働きかけのためだという立場から、西欧諸国は、日本に対する付き合いで宣言を採択した、とさえほのめかしている。記事は、他のG7各国は、日本政府の考え方に対して何も知らないわけではないが、時には、同盟国(日本)の外交面での面目を考慮に入れたり、妥協点を見出す必要がある、と語っている。あたかも、日本以外の国は、本気で非難しているわけではない、というようだ。

◆日本には南シナ海問題に間接的に関わる方法もある
 時事通信(19日)は、日米両政府が、南シナ海での自衛隊と米軍による共同の警戒監視の実施について検討に入った、と報じた。ただし、もし実現すれば、中国を刺激する結果になるため、日本政府は慎重に検討を進めていく構えだ。

 日本は、南シナ海問題に間接的に関わる方策も取っている。その一つが、政府開発援助(ODA)を通じた、フィリピン沿岸警備隊への多目的船10隻の提供である。マニラ・タイムズ紙によると、現在、フィリピンは、「海上安全対応能力強化事業」を進めている。海洋権益を守るために必要な装備をそろえるというもので、事業全体の予算は88.1億フィリピンペソ(約236.7億円)。そのうち73.7億フィリピンペソ(約198億円)が、国際協力機構(JICA)のひも付き融資で賄われるという(JICAによると約187億円)。

 そして同紙によると、先週、フィリピンの運輸通信省は、40m級多目的船10隻を建造する契約を、日本の造船会社ジャパン マリンユナイテッドと結んだとのことだ。同社は、先月引き渡された自衛隊最大の護衛艦「いずも」を建造した会社だ。船は、災難救助や、密漁関連などの海上法執行、海洋巡視などに使用される。ジャパン マリンユナイテッドの落札額は127.9億円で、標準的な補修部品と工具の供給、乗員の訓練、海上輸送、海上保険が含まれるという。

Text by NewSphere 編集部