インドネシアに新幹線輸出できるか? 試乗したジョコウィ大統領、「年内に決定」と語る

 今月22日から25日にかけて、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が来日した。このことは日本の経済界から大きな注目を集め、大統領の行く所には常に財界の大物が待ち構えているような状態であった。

◆財界人が注目した訪日
 今やインドネシアは日本にとって重要なビジネスパートナーであることは、冒頭の現象が示している。日本滞在4日間の大統領のスケジュールは非常に過密だった。天皇皇后両陛下との会見、安倍晋三首相との首脳会談を済ませた大統領は、息つく間もなく今度は財界人との交流の場に足を運んだ。

 特に、24日に東京都心のホテル・ニューオータニで行われたジェトロ主催ビジネスフォーラムでは、大統領の基調講演が聞けるということで1200人もの財界人が集結した。

◆工業立国を目指して
 このフォーラムの様子を、現地メディアの報道から覗いてみよう。デティックニュースは、記事の冒頭でこう書いている。

「ジョコ・ウィドド大統領は日尼ビジネスフォーラムの場で、日本の経営者に向けた講演を行った。大統領はあたかも一介のマーケティング担当者のように、聴衆に向けインドネシアへの投資に関するプレゼンテーションを始めた」

 これはどういうことかというと、この時の大統領は壇上に設けられた演台で話すことはあまりせず、自らレーザーポインターを手に取って大型スクリーンを横目にこれからの開発計画の説明を行ったのだ。ジェトロが用意したプログラム内容は確かに「基調講演」ではあったが、実際はプレゼンテーションそのものだったのだ。

 この中で大統領は、インドネシア各地で予定されている港湾整備計画、発電所計画、海上輸送計画などについて熱弁を振るった。インドネシアのテレビ局メトロTVは、今回の講演の核というべき大統領の発言を掲載している。

「インドネシアは、未加工の天然資源をただ輸出するだけの貿易はもうやらない。その代わりに、アジアや世界の生産拠点となるような国を目指す」

 インドネシア政府の主張は、実はこの言葉のみでまとめることができる。大統領の狙いは、自国の重工業発展に直結できる投資の呼び込みである。未加工鉱石の輸出というのは一番手っ取り早い外貨獲得手段で、紛争国のゲリラ組織ですらも実行できるほど簡単な商売ではあるが、待っているのは目先の売り上げと資源の枯渇のみである。そこに高度な産業は育たない。長期的なビジョンでの国づくりを考えるならば、鉱石を精製する施設すなわち生産工場を作ることが得策だ。

◆莫大な成果を手に
 翌25日、大統領は東京駅から新幹線のぞみ311号に乗車した。その目的は、愛知県にあるトヨタ自動車本社の視察である。

 ここで大統領は同社の豊田章男社長と会談。インドネシア側のメディアであるオーケーゾーンは、豊田社長が大統領に対し20兆ルピア規模の投資拡大を約束したと報じている。20兆ルピアとは、現在のレートで換算すると約1800億円だ。この2日前に、安倍首相が大統領に提示した円借款の総額が約1400億円である。訪日の成果としては充分過ぎるほどだ。

 ちなみに、愛知県への移動の際に乗車した新幹線は、当然ながら大統領とJR東日本にとっての「会談の場」であった。そしてこれが、日本側にとって大きな収穫をもたらしたようだ。ここでは全国紙コンパスの記事を取り上げよう。

「ジョコ大統領はインドネシアで持ち上がっている新幹線導入計画について、こう語った。
『我々は新幹線建設に向け、今年中に決定を出す』
その後、ある一人の記者が新幹線の乗り心地について質問した。大統領はそれに対し、微笑みながらこう返した。
『さあ、どうだろう。とりあえず、私は寝ることにする。富士山はもう見たんだ。眠らせてくれ』」

 JR東日本から見れば、100点満点のPRと考えていいだろう。眠りを妨げることのない快適な高速鉄道を、インドネシア大統領にアピールすることができたのだ。インドネシア新幹線計画は今年に入り、「完成後の利用料金が高過ぎる」という理由でプロジェクト凍結の憂き目に遭っているが、それを復活させる可能性が出てきた。

 今回の大統領の訪日は、日尼両国にとって非常にメリットのあるものだったと言える。

Text by 澤田真一