日本のASEAN戦略、「連結性」を重視 タイでは中国と鉄道建設レース

 日本が最近、ASEAN(東南アジア諸国連合)との関係強化に熱心だと、現地メディアや欧米メディアが報じている。最近では、三菱商事とマレーシアの大手金融機関が、ASEAN諸国を対象にした投資ファンドを設立した(マレーシア紙『THE STAR』)。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、タイを舞台にした日本と中国の鉄道開発レースを取り上げている。

 また、外務省はASEAN諸国からジャーナリストを招き、日本の外交政策などについて意見交換するプログラムを実施した。シンガポール紙の記者らが参加体験を書いている。

◆日本は「東西横断」中国は「南北縦断」
 三菱商事は3日、マレーシアのCIMBグループと共同で、ASEAN域内の現地中堅企業に投資するファンドを設立したと発表した。日本政策投資銀行もパートナーシップに加わっているほか、新生銀行、日立製作所、大和鉱業、東邦銀行も同ファンドに投資する。シンガポールに拠点を設け、インドネシア、マレーシア、ベトナムなどに重点的に投資する計画だ。

 タイでは、日本と中国が鉄道建設で火花を散らす。日本は、東西を横断する貨物線を計画。首都バンコクと、カンボジア及びミャンマー国境に近い町を結ぶ計画だ。ミャンマー側のダウェイには日本、タイ、ミャンマー政府の肝いりで大規模な産業エリアと港を作るプロジェクトが持ち上がっている(FT)。将来的には、この鉄道がダウェイやバンコク周辺に生産拠点を置く日本企業の物流の動脈として利用する目論見だ。

 中国の計画は、インドシナ半島を南北に縦断する貨物路線だ。港を擁するラヨーンとラオス国境のノン・カイの町を結ぶ。日中の計画はともに、最終的には高速旅客輸送や国境を越えたインドシナ半島全体のネットワークを目指しているという。中国は「先進国の証」である政府開発援助(ODA)の支出などを通じて新たに東南アジアでの地歩を固めようとしており、日本は「長年の間に培った東南アジアでの経済的影響力を維持しようと模索している」と、FTは見ている。

◆国境を越えた交通網・物流の整備が不可欠
 日本がタイの鉄道事業に力を入れる背景には、東南アジア諸国全体の「連結性」の強化が、長期的な投資を促すのに不可欠だという考えがあるようだ。タイのネイション紙は、「ASEANと日本の新時代のパートナーシップ」をテーマに東京で開かれた国際シンポジウムで、この話題が取り上げられたと報じている。

 同紙によれば、元アジア開発銀行所長の河合正弘・東大名誉教授は、「日本はASEANに40年以上投資している。そして、今や最大の生産拠点だ」と述べ、日本の投資をさらに増やすには、国境を越えた交通網や物流サービスの強化など、ASEAN諸国の「連結性」が不可欠だと問題提起したという。

◆外務省がASEANのジャーナリストたちを招待
 『TODAY』のアルバート・ワイ記者は、外務省のジャーナリスト招待プログラムに参加した一人だ。同記者によれば、ASEAN各国から20人の記者が参加し、8日間にわたって「日本の外交政策、日中関係、ASEANと日本の関係など様々な戦略的問題について、ブリーフィングとディスカッションを重ねた」という。

 ワイ記者は「これらのミーティングを通じて私が驚いたのは、日本がアジアへの影響力を巡って中国と争う中、いかにASEANと近い関係を築こうとしているかということだ」と感想を述べている。その具体的な根拠として、ミャンマーとベトナムへの郵便関連の援助、カンボジアに日本の病院の支部を作る動きなどを挙げている。

 インドネシアの『ボルネオ・ポスト』は、日本が5年間で2兆円のODAをASEANに拠出する件を強調している。また、同メディアによれば、外務省はASEAN加盟国への援助を「最優先事項」としており、中でも開発が遅れているCLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)を重視していると招待プログラムに参加したジャーナリストたちに説明したという。

Text by NewSphere 編集部