日韓対立に我慢の限界か…米高官が歴史問題の政治利用に苦言 韓国紙は猛反発

 アメリカの外交政策を担当する国務省のシャーマン国務次官は、27日、ワシントンのカーネギー国際平和財団での講演で、歴史問題が日中韓の協力を妨げていると指摘した。各国の指導者が、国内での人気取りのために歴史問題を利用しているとほのめかし、そのような取り上げ方を「挑発」と呼んだ。次官の発言は韓国内に波紋を広げたようだ。韓国メディアが報じている。

◆歴史問題での各国の主張は、理解できるものの、フラストレーションが溜まる、と次官
 シャーマン国務次官は講演で、日中韓3国とアメリカが協力することで、世界の平和と繁栄につながるとして、その重要性を強調した。

 けれども、歴史問題がその障壁になっている。韓国と、特に中国は、日本の防衛政策のどんな変化にも敏感だ。日中韓は、慰安婦問題、歴史教科書問題、日本海の呼称などで言い争っている。「これらは皆、理解できるものだが、いらだたしいものでもあり得る」と次官は語る。

 「ナショナリスト的感情は、まだまだ不当に利用できるもので、どの国の政治指導者にとっても、かつての敵をあしざまに言うことによって、安っぽい拍手喝さいを得るのは難しくない。けれどもそのような挑発は、進歩ではなく、停滞を生み出す。前に進むためには、過去のことにとらわれず、未来にあるものを想像しなければならない」

◆アメリカの方針変化か、と韓国内では大きな反応
 これらの発言は、講演全体からすればわずかな部分であるが、韓国国内で注意を引いたようだ。

 韓国英字紙コリア・タイムズは、「米高官が、日本の植民地支配の悪行の表面を取り繕おうとする安倍首相の試みの味方をした」と断じた。「日中韓の平和は、日本政府の心からの反省に始まるだろうとする、被害国である中韓両国の見解を無視したものだ」と伝えた。

 ハンギョレ新聞(英語)によると、韓国東西大学校のCho Se-young教授は、「シャーマン国務次官の発言が、米政府を代表したものであるなら、われわれにとって大きな失望だ」と語ったという。

 朝鮮日報はこの発言が、慰安婦問題に関する「真実の歪曲(わいきょく)」、靖国参拝といった日本の「挑発」よりも、韓国と中国が日本のこのような振る舞いを国内政治に利用しているのが問題だという考えをにじませた、と語った。

 聯合ニュース(英語)によると、韓国与党セヌリ党の金乙東最高委員は、アメリカ政府が被害国を見て見ぬふりをするのであれば、世界の警察としての地位をすぐに失うだろう、と警告したという。また野党新政治民主連合の田炳憲議員は、「わが国政府の外交的無力さを非難せざるを得ない」と語ったという。

 ハンギョレ新聞はこの講演で、日本に対し、過去の振る舞いを反省し謝罪することへの要請が、名ばかりも行われなかったことが注目を集めた、とした。米政府はかつて日本に対し、過去の振る舞いについて心から反省し、中国、韓国に謝罪し、両国との和解と癒しに到達するよう要請していたが、そこからはっきりと離脱した、と語った。聯合ニュースは、オバマ大統領が昨年の訪韓時に、慰安婦問題について「非常に深刻で甚だしい人権侵害」だと語ったことを伝えている。朝鮮日報はオバマ大統領がその際、解決に向けて日本が積極的に努力すべきと強調した、と伝える。

◆韓国メディアによる分析
 ハンギョレ新聞によると、次官の発言は韓国内で、米政府は日中・日韓間で何年もくすぶっている歴史問題をめぐる対立を、これ以上見過ごすことはできない、という米政府の警告として受け取られているそうだ。

 アメリカの態度の変化の根底には、歴史問題のせいで、日米韓の3国間の安全保障協力が弱められ、中国政府に対する拮抗力が危うくなることを、アメリカはこれ以上受け入れられない、という考えがあるようだとしている。コリア・タイムズは専門家の見解として、アメリカは、日本がアジアで中国をけん制する努力を明らかに行っていることで日本を支持しており、そのことが韓国をジレンマに追い込んでいる、と伝えた。

 また聯合ニュースによると、米政府の関心が明らかに日本のほうに傾いており、方針を変更したのかもしれないとの議論が韓国内で上がったという。ハンギョレ新聞は、日米がTPP交渉を進めており、4月末に予想される安倍首相の訪米前に、速やかに合意に達することを狙いとして、アメリカが態度を変えたのではないか、と推測している。

 朝鮮日報は、アメリカが自国の利害関係にばかり注目していることから、今回の発言は韓国と中国の反発を招くとみられる、と語っている。

◆やめられない主張
 コリア・タイムズによると、韓国の朴大統領は1日にも、日本政府は性奴隷のような自らの悪事について責任を認め、心からの謝罪を行うべきであると発言している。1日は日本の植民地支配に対抗した1919年の「3.1独立運動」の96周年記念日だったという。

Text by NewSphere 編集部