「イスラム国」2億ドル要求は宣伝目的か 背景にアルカイダとの勢力争い…仏新聞襲撃の余波

イスラム国人質事件

 イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)のメンバーと見られる人物が、日本政府に対し、72時間以内に身代金2億ドル(約235億円)を支払わなければ、人質2人を殺害する、と脅迫する映像が20日公開された。海外メディアは、事件の動機や影響について、分析をめぐらせている。

◆身代金要求は世界のメディアで目立つため?
 ISはこれまでにも同様の脅迫映像を公開してきたが、明示的に身代金を要求したのは、今回が初めてだ。その狙いについて、ロンドン大学キングス・カレッジ戦争研究学部のEugenio Lilli研究員は、英テレグラフ紙で、金銭そのものが目的というより、宣伝効果を期待してのものだ、と推測している。

 イスラム過激派の世界では、現在、主にISとアルカイダの間で勢力争いが行われている、と同氏は語る。どちらも、唯一にして真正の指導者の地位を獲得しようとして、2013年以来、張り合っているというのだ。

 両者はともに、信奉者集めのためと、世界のメディアの注目に乗じるため、ソーシャルネットワークを活用することに非常に長けている、と氏は語る。フランスの風刺新聞「シャルリー・エブド」襲撃事件では、「アラビア半島のアルカイダ」が犯行声明を発表した。この事件により、アルカイダは国際的に非常に大きな注目を浴びた。今回、ISが身代金を要求したのは、国際メディアでニュースになることで、失った地歩をいくらか取り戻そうとする試みの可能性がある、と同氏は述べている。

◆首相の対外政策に本質的に備わるリスクとの指摘も
 安倍首相は17日にエジプトで、ISと戦う周辺各国に対し、2億ドル程度の非軍事的支援を行うと表明した。英ガーディアン紙は、ISがこの支援を特定して非難したことに注目した。

 安倍首相は、国際社会の反テロリズムの流れの中で、より重要な役割を担い、日本の存在感を高めようとしている。特に中東では、米英との連携を強化する結果になっている。首相の願望には本来的にリスクが存在しており、今回の脅迫事件はそれを劇的に例証している、と同紙は語る。日本がアメリカ(やイギリス)と一体視されているという背景があって、ISの脅迫の対象にされたと、同紙は伝えようとしているようだ。

 また、もともと首相の対外政策での中心的な関心事は、テロでも中東の安定でもなく、中国と北朝鮮の潜在的脅威だ。けれども首相は、日本が中国に立ち向かうためには、アメリカとの同盟関係がこれまで以上に必要だと考えている、と同紙はみている。

◆安倍首相は「積極的平和主義」をさらに推進するだろう
 安倍首相は「国際協調にもとづく積極的平和主義」を方針として打ち出している。その眼目は、集団的自衛権の行使を可能とするところにある。ロイターは、今回の脅迫により、首相は安全保障についての姿勢を硬化させる可能性がある、と語っている。首相の人となりからしても、今回の事件を受けて姿勢を軟化させる可能性はなさそうだ、といった趣旨のコメントを紹介している。

 今回の事件で、首相が取りうる対応には、選択肢はあまりないようだ、とロイターは語る。憲法上、自衛隊は救出作戦を行うことができない。またもし身代金を支払えば、人質解放のための身代金支払いを認めない米国と不和に陥るだろう。もし2人の人質が殺害されたとしても、首相を非難する国民は少なそうだ、ともロイターは語っている。

Text by NewSphere 編集部