法人減税で賃金アップ? アベノミクス加速に海外期待

安倍首相

 政府与党は、2015年度から、法人実効税率を現行の34.62%から32.11%へと2.51ポイント引き下げる方針を固めた。先月30日に発表された与党税制改正大綱に盛り込まれ、その主な目的は企業に賃金アップと投資の拡大を促すためだとしている。海外経済各紙も、年初を飾るアベノミクスの最新の一手だと、これを報じている。

◆賃金を上げる「暗黙の了解」が成立?
 法人実効税率は、企業の儲けにかかる実質的な税負担の割合のことだ。財務省によると、日本はG7諸国の中でアメリカに次いで2番目に高い(ブルームバーグ)。政府は、これを5年以内に世界標準の30%以下にする計画で、今回は来年度に32.11%、再来年度には31.33%まで下げることで自民党と公明党が合意した。

 自民党税制調査会の野田毅会長は記者会見で、減税の恩恵を受ける黒字企業に対し、内部留保を増やすという現在の「態度を改め」、減税によって生じた資金を「賃金アップや資本投資などの生産的な目的に使って欲しい」などと述べた(ウォール・ストリート・ジャーナル紙=WSJ)。

 FTとブルームバーグも、減税の目的は黒字企業に賃金アップと投資を促し、個人消費拡大に結びつけるためだとしている。FTは、経団連が、2015年は賃金を上げる「最大限の努力をする」と政府に約束したと記す。また、ある政府高官は、企業が法人税減税に対応して賃金を上げるという「暗黙の了解」が出来上がっていると明かしたという。

◆アベノミクスの「不可欠なステップ」
 WSJは、安倍首相は、日本企業は他の主要先進国と同等の税率で勝負すべきだと考えていると記す。そして、その先にある賃金アップは、アベノミクスの「不可欠なステップだと見られている」と表現する。

 一方、FTは、アベノミクスは今、「円安のせいで生活コストが上がった」という批判にさらされていると見ている。WSJも昨年4月の消費税増税以降、日本は再び後退に陥っているとし、法人税減税は、これらを解決する「次の一手」だという側面もあると見ているようだ。

 そうした中、大和総研金融調査部の吉井一洋氏は、「今回の税制見直しは、特に利益を上げている企業に賃金アップと投資の拡大を促すのには効果的だ」などと、概ね肯定的な見解を述べている(ブルームバーグ)。

◆「減税を相殺する増税」も
 財務省などによれば、法人実効税率の引き下げにより、税収は2年間で1兆5000億円程度減る見込みだという。各紙は、政府与党はそれを埋め合わせるために、いくつかの実質的な増税案を出していることにも触れている。赤字企業にも課せられる「外形標準課税」の拡大や、過去の赤字を翌年度以降に繰り越し、黒字と相殺できる「繰り越し控除」の縮小――などがそれに当たる。

 WSJはこれらを加味して、「法人税減税の長期的な影響を予想するのは難しい。その理由の一つは、政府当局が、税収減を補うために企業にかかるその他の税を上げようとしているからだ」としている。

 一方、FTは、財務省が来年度予算案でも引き続き社会保障費を中心とした予算削減に苦心していることに触れ、「日本政府は成長の促進と予算削減という相反する目標の間で苦心し続けるだろう」とする米識者のコメントを載せている。

Text by NewSphere 編集部