自民、苦戦のはずが圧勝? “他に選択肢がない…”野党の弱体化を海外紙嘆く

 衆議院選挙の投開票日が、14日と迫った。新聞各社による世論調査では、序盤情勢に引き続き、中盤情勢でも、自民党の優勢が見込まれている。多くのメディアで、対抗勢力となるべき野党、とりわけ民主党の存在感の低下に原因があるとの分析がなされている。

◆民主党は議席を増やす予測、それでも「大敗」?
 8日付の毎日新聞で報じられたところによると、5~7日に実施された世論調査の結果、衆議院の定数475議席のうち、自民党の獲得議席は300議席を超える勢いだ。さらに定数の3分の2となる317議席以上の獲得も視野に入っているという。

 対して民主党は、公示前の62議席を上回るものの、その伸びは小幅にとどまる見通しとされている。朝日新聞デジタルの10日付記事によると、民主党は議席数を70議席台に増やす公算が大きいとされている。

 それでも、フィナンシャル・タイムズ紙の10日付記事(以下FT紙a)は、民主党は前回2012年の衆院選に続き、今度の選挙でもう一度「大敗」を喫する可能性が高い、と敗北という面を強調して伝える。民主党はかつて、イギリスやアメリカのような2大政党制を目指していた。同紙の9日付記事(以下FT紙b)では、結局、日本では2大政党制が根付かなかったということを伝えている。

◆今回の選挙のある「典型的な投票者」。どうして自民党に投票?
 FT紙aは、ある実在の女性の姿を通して、今回の選挙における「典型的な投票者」像を描き出す。その人は、アベノミクスについては、果物と野菜の値段が上がったことのほかには何の影響も感じていない。安倍首相が選挙での2度目の圧勝によって、原発再稼働や自衛隊増強といった不評な政策について「独断的」になってしまうかもしれないと危ぶんでいる。しかしそれでも、民主党を支持することにはわずかばかりも関心がない、というのだ。この人は、白票を投じようかとも考えているという。

 自民党の楽勝ムードが伝えられるなか、本来ならば、もっと苦戦に追い込まれていても不思議ではない、という視点を提示しているのが、ビジネス情報誌『ブルームバーグ・ビジネスウィーク』(以下ブルームバーグ)だ。8日に発表になった7~9月期のGDP改訂値では、実質GDPの対前期比・年率換算値がマイナス1.9%となり、前回速報値のマイナス1.6%よりさらに悪化した。アベノミクスは大混乱状態にあるように思われる、と同誌は語る。FT紙aも、自民党は現状よりも困った状況にあるはずだった、と語っている。

 自民党の堅調の理由について、政策研究大学院大学の飯尾潤・政治学教授は「他に選択肢がない」とFT紙aに語っている。ブルームバーグは、野党勢力が弱体化していることが、自民党にとって有利な点だとしている。 安倍首相にとって、ライバルが「退屈極まりない」海江田万里代表であるのも幸運な点だ、とテンプル大学ジャパンキャンパスのアジア研究学科ディレクター、ジェフリー・キングストン教授は指摘する。FT紙aは、海江田代表は「カリスマ的な」安倍首相と比べて精彩を欠き、無力だと思われている、との金城大学特任教授の本田雅俊氏の言葉を伝えている。

 またキングストン教授は、「海江田氏は、ここ一番に準備ができていない党全体を代表している」とも語っている。

◆アベノミクスに代わる経済政策を野党が提示できていない?
 民主党の不人気の原因について、FT紙a、bとブルームバーグは、民主党の過去の政権運営に対する国民の失望が深いことを挙げている。

 またFT紙bは、自民党、安倍首相が優勢である理由について、アベノミクスに対する熱狂がいまや不足しているものの、アベノミクスを中途で放り出すことへの欲求はさらに低い、と語っている。日本国民は、安倍首相をいま追い出すことよりも、アベノミクスが成果を挙げられるか、見守ることを望んでいる、としている。今回の選挙で顕著なのは、どの政党も(共産党を除けば)アベノミクスに代わる方針を明確に表現できていないことだという。

◆今回の選挙は、対野党ではなく、対自民内勢力?
 FT紙bによると、今回の選挙は、野党民主党が相手というよりも、自民党内の、アベノミクス推進をためらっている勢力との闘いだと、首相に近い人物が語っている。同紙は、選挙での勝利は、政敵ばかりでなく、自民党内の意見の不一致をも無力化するだろう、としている。

 ブルームバーグは、もし自民党が大勝すれば、首相は、自身にとっては優先事項だが、多くの日本人の間で不評な政策について、おそらくいま以上に積極的に行動するようになるだろう、と語る。原発再稼働、憲法の修正、アベノミクス「第3の矢」による労働市場の開放、雇用者が従業員を解雇しやすくすることなどが挙げられている。

Text by NewSphere 編集部