日本の歴史教育“右傾化”を中韓米が懸念…米紙報道 政府は否定

 大前研一氏が『ボーダレス・ワールド』を上梓して以来四半世紀が過ぎようとしている現在、経済とテクノロジーがグローバル化を推し進めている。その一方で、ここに来て世界的にナショナリズムが再び台頭するという「奇妙な」現象が見られる、とフィナンシャル・タイムズ(FT)紙が伝えている。

◆アジアで特徴的なナショナリズム
 FT紙は、全世界におけるナショナリズムあるいは分離主義の動きを網羅的に指摘した記事を掲載している。アジアの状況については、特に中国、日本、インドの「三大国」における類似点が挙げられている。つまり、三国のリーダーはそれぞれが「カリスマ的なナショナリスト」である点が共通しており、また、経済と社会構造改革への刺激として使用される「国家再生」というレトリックも互いに似通っている、という。

 国内でのレトリックに使われるナショナリズムが、国際的には中国と他2国のどちらかとの間での国境紛争という形で衝突し、戦争のリスクを高めていると同紙は指摘している。

◆中国のナショナリズムの現状
 では、中国におけるナショナリズムの状況はどうなっているのだろうか。

 フォーリン・ポリシー誌が伝えるところでは、中国政府は国内のナショナリストによる抗議運動を抑圧し続けている。ナショナリズム運動が許されるのは、それによって政府が具体的な利益を得る時だと同誌は指摘する。市民による活発な抗議運動は、対外的に政府の置かれた「苦しい立場」を証拠付け、和解を拒絶することを正当化するからだ。

 しかし、中国政府が抗議運動を抑圧する度に、国内での信用に実質的なコストとリスクがかかっている。一方で、抗議活動を許可すれば安定性に対する更に危険な危険因子ともなり得る。政治参加について他の道筋を欠く市民は、本来の目的とは異なる目的の達成のためにナショナリストの抗議活動に参加しかねない、というのが同誌の分析だ。

◆アメリカから見た日本のナショナリズム
 一方で、ニューヨーク・タイムズ紙は、「日本の分裂した教育戦略」という見出しで日本の現状についての見解を報じている。

 同紙は、日本は大学レベルでの国際化を進めながらも、他方で「愛国的」な歴史教育・教科書によって、軍国主義の再生を恐れるアジアの隣人を遠ざけていると述べる。同時に、米中韓の三国について、相互関係を結ぼうとする一方で「まさにその国」をナショナリズムの台頭が苛立たせていると指摘している。

 ボストン大のトーマス・バーガー教授は、「日本の教科書政策はアジアとの緊張を高め、近隣諸国で学ぼうとする日本人と日本へ来ようとする外国人の自発的意思を蝕んでいる」と同紙に述べている。

 アメリカに関しては、同盟国でさえも日本の新しい教科書には失望している、とのアジア政策問題専門家の意見を同紙は伝え、以下のような言葉を引用する。

 「失望が由来するところは、日本のリーダーが、逆行し、信用に値しない、攻撃的な見解を歴史のみならず、人種、女性、戦争、平和、和解についても持っていることだ」

 下村文科相は、政府が特定の歴史観を支持していることは否定するが、自身がもっと愛国的な動きを期待していることは認めた、と同紙は報じる。

◆ナショナリズムがもたらす危険
 FT紙はスコットランド独立運動を例に挙げ、「不運なことに、ナショナリズム運動は自らを外国人に敵対すると定義するため、しばしば隣家に敵対するナショナリズム運動を誘発する」とナショナリズムの台頭がもたらす危険を指摘した。

 同紙は更に、「同じ動力がアジアではより危険な形で働いている」と日中両国における市民の感情悪化について述べ、警告を発している。

※本文中「塩村文科相」は「下村文科相」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。本文は訂正済みです。(10/15)

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Text by NewSphere 編集部