集団的自衛権の行使容認を閣議決定、「世論に向き合わなかった」安倍首相を米中紙が批判

 日本政府は1日午後、首相官邸で臨時閣議を開き、集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更を決定した。

 従来の政府見解では、自衛権の発動は、「わが国に対する急迫不正の侵害の発生」の場合に限られてきた。今回の解釈変更により、日本と「密接な関係にある他国」への武力攻撃により、国民の生命、権利が「根底から覆される明白な危険がある場合」に自衛権を行使できるようになった。

 各紙によると、安倍首相は記者会見で「いままでの3要件とほとんど同じ。憲法の規範性をなんら変更するものではなく、新3要件は憲法上の明確な歯止めとなっている」と語ったという。

 日本の安全保障政策の歴史的転換を、海外メディアも大きく報じている。

【重い軍事的負担】
 オバマ大統領をはじめ、米国は憲法解釈変更を是認している、とウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は報じている。

 集団的自衛権の行使を可能にすることで、日本は米国との同盟関係において、一層重い軍事的負担を受け入れることになる、との指摘もあるという。

 日本戦略研究フォーラムの防衛研究者グラント・ニューシャム氏は、日本の影響力拡大を歓迎している。「米国の国防予算が縮小し、アジアでのプレゼンスを高めるよう(米軍が)強く求められている時に大いに役立つ」と述べたという(WSJ)。

【あいまいな定義】
 一方、韓国の朝鮮日報は、集団的自衛権の行使の要件があいまい、と指摘している。「密接な国」とすることで、同盟国の米国以外の紛争にも介入できる可能性があり、「明白な危険」に関しても、「個別・具体的な状況に即して判断する」と規定することで、より多くの事例に武力行使できる、というのだ。中央日報も、集団的自衛権は、領域内の平和と安定に寄与する方向で透明性を持って行使しなければならない、と釘を刺している。

 中国国営新華社通信も、要件のあいまいさを指摘し、熱狂的で近視眼的な政治家たちにより、日本が不必要な戦争に巻き込まれる危険がある、と指摘している。

 同メディアは、安倍首相が侵略の歴史と向き合わず、軍国主義の再興を黙認していると非難し、今回の閣議決定を地域にとっての脅威だ、と報じている。

 安倍首相は明言していないが、今回の閣議決定の背景には、中国の軍備拡大、東・南シナ海での挑発行動がある、と日本各紙は指摘する。中国の報道もこの点を意識したものといえる。

【日本国憲法と民主主義に対する冷笑的な態度】
 WSJ紙は、集団的自衛権の行使に対し、日本の主要紙の世論調査(日経、毎日、朝日)で半数近くが反対していることにふれている。

 また同紙は、安全保障政策の歴史的大転換を、憲法改正ではなく、解釈変更で行った安倍首相の手法に批判が集まっている、と指摘。世論に向き合わなかった安倍首相に対して手厳しい。安倍首相について、「日本の憲法安全保障政策の歴史的大転換を、憲法の改正ではなく、解釈変更で行う安倍首相の手法への批判が集まっている、とも同紙は指摘。と民主主義を冷笑している」、とテンプル大学現代アジア研究所のジェフ・キングストン所長は評した。

 新華社通信も、安倍内閣は国会において適切な討論を許さず、国民の意思を問う責任を回避した、と報じている。平和憲法に対する露骨な裏切り、と同メディアの別の記事も批判している。

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Text by NewSphere 編集部