アベノミクスは「雇用なき景気回復」か 非正規労働者増に英紙懸念

 アベノミクス「第3の矢」の成長戦略では、雇用、医療、教育、農業など様々な分野の規制改革が挙げられている。海外各紙は、雇用の現状や改革の進捗について着目している。

【実態は雇用なき景気回復か 解雇規制緩和どうなる】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、雇用に着目。データは改善傾向のようにみえるが、実態は“雇用なき景気回復”(モルガン・スタンレーMUFG証券の山口毅エコノミスト)と報じている。

 厚生労働省によると、失業率は3.6%(14年2月)と98年以来の低い水準を記録している。有効求人倍率も上昇傾向にあり、全国ベースで1.05倍となっている。

 ただし、昨年第4四半期は、前年同期と比べ、正規雇用者は47万人減少し、非正規雇用者(パート、臨時職員、契約社員など)は122万人増加している。2月の非正規雇用者割合は約37%で、過去最高を記録した。

 同紙はその背景として、日本の強固な解雇規制を挙げる。そのためエコノミストによると、業績は改善しても、この先も成長できるかとの不安から、企業は正社員の雇用に及び腰になるという。非正規から正規への転換を進めるユニクロやニトリなどは例外的だ。

 安倍政権は、こうした規制を緩和した雇用特区の構想を昨年10月に明らかにしたが、「首切り」「解雇」特区などと呼ばれて猛反発を浴びた。同紙は、根深い正規と非正規の不均衡を是正する、と規制緩和を支持する専門家のコメントを掲載。福岡市が「創業のための雇用改革拠点特区」に指定されたことを挙げ、今後を注視している。

【安倍首相の改革は本気か?エネルギー計画は後ろ向きと批判が】
 ブルームバーグ・ビューのコラムニスト、ウィリアム・ペセック氏も、改革の後退を批判する。具体例として、引き続き原発を重要な電源と位置づけたエネルギー基本計画の決定と、日本取引所グループが企業のディスクロージャー(情報開示)強化を見送ったことを挙げている。

 同氏は、日本は再生可能エネルギーの活用にシフトすべきと提言。小泉元首相が脱原発を主張していることにふれ、方向性を示すことで、投資や技術革新が進むと見ている。原発維持という安倍首相の判断は、業界の既得権益を守るもので、「後ろ向き」と批判している。

 なお、脱原発を掲げ、太陽光や風力発電の導入を進めるドイツでは、バックアップとして石炭火力発電への依存度が増加。コスト増や送電線の容量不足などの課題も報じられている。同氏の主張は、エネルギー政策の方向性を変えることを重視。こうした課題への対処法も、技術革新が進む中で解決されるものと見ているようだ。

【情報開示、ガバナンスにも課題】
 次に、日本の上場企業のガバナンスについても手厳しい。社外取締役の義務化などが、財界の強烈な反対で見送られていることを、改革の後退だと懸念している。

 実際、米調査機関GMIの「ガバナンス番付」(2010年)によると、38ヶ国中日本は35位。ロシア(30位)や中国(34位)以下だった。同氏は、大王製紙前会長の巨額借入事件、みずほ銀行の暴力団融資、東電の原発問題などの例を挙げ、現状の制度では不十分だと批判を強めている。

 東証の株式売買代金は07年をピークに下落傾向にあり、TOPIXは今年に入って約13%下がっている。国内外の投資家の目は厳しい。同氏は、株式市場の活性化のためにも、情報開示やガバナンス強化が必要というスタンスのようだ。

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Text by NewSphere 編集部