「ナショナリズムより経済」海外紙が安倍首相を絶賛する3つのポイントとは?

 21日、第23回参院選の投開票が行われた。昨年12月に第2次安倍内閣が発足して以来、初の本格的な国政選挙では、選挙区選73、比例選48の計121議席が争われた。
 結果は、自民党の圧勝だった。改選定数が121になった2001年以降で最多の65議席を獲得し、単独で改選定数(121)の過半数超えを達成。非改選議席を合わせると、自公の連立で過半数(122)を確保し、参院で与党が少数の「ねじれ国会」は解消された。憲法改正案提出のために必要な3分の2には満たなかったものの、参院の全ての常任委員会で、委員長ポストを得た上で、委員の過半数を占めることができる「絶対安定多数」(135議席)に達し、安倍首相は安定した政権運営を進める基盤を得た。

 焦点となった「ねじれ」は、ほかでもなく、第1次安倍内閣時代、07年参院選で自民党が大敗を喫したときに生じたものだった。当時、安倍氏は、「潰瘍性大腸炎」を患い、政府高官のスキャンダルが相次ぎ、身内のナショナリストで固めた内閣が「お友達内閣」と揶揄を呼ぶなか、身をひそめるように表舞台から姿を消した。

 その安倍氏が昨年12月、見事に首相の座に返り咲き、今回、因縁の参院選で「リベンジ」を果たした。今回の圧勝を導いた安倍氏の変化について、海外紙が挙げているポイントは大きく3つある。

【1.日本の復活と自らの復活を重ねあわせた「イメージ戦略」の成功】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、日本は落伍者に厳しい社会であると指摘。ただでさえ、「セカンドチャンス」が得られる人は少なく、ましてや政治の世界に視線を転ずれば、安倍氏は過去40年間で失政から返り咲いた「唯一の存在」だと述べている。

 安倍氏の今回の「成功」は、みじめな敗北から立ち直った自らの姿に、一時は世界を席巻する経済力を獲得しながら、長い低迷にあえいできた日本経済の姿を重ね合わせる「イメージ戦略」に成功したことだ、と、識者は指摘している。大胆な刺激策によって、経済が長い低迷から浮上しつつある「兆し」に、日本人が希望を見出したとの分析だ。

【2.古い自民党を打破する「改革」姿勢】
 同紙によれば、安倍氏は、古い経済との固着を指摘されがちな自民党のイメージをも刷新しようとしており、「失敗や停滞を恐れずに挑戦すること」を日本に定着させようとしているという。
 中途退職者が、そのままメインストリームを去ってしまう日本の風潮を打破し、「数限りない失敗を重ねながら、大きく成長する起業家マインド」を育成したいとの考えだ。そのために、海外で実際にそういった成功を収めた人物を招いてのセミナーも開かれ、首相自ら参加しているという。

 同紙は、こうした安倍氏の姿を、わずか1年で政権から追われざるを得なかった07年とは、まるで別人のようだと評している。

 さらに、安倍氏の「挑戦」は、単なる経済的な変革ではなく、「文化的な変革」を目指すものだと海外の識者は指摘しているようだ。元シリコン・バレーの法律家にして、現在駐日米大使を務めるジョン・ルース氏は、「失敗や行き詰まりを恐れていては、起業家としての成功はありえない」と指摘し、安倍氏の「挑戦」を「刺激的だ」と高く評価しているという。

【3.ナショナリストとしての一面をおさえ、経済に集中】
 一方、フィナンシャル・タイムズ紙は、党首選に出馬するにあたって、昨年12月、「自分は、一度は死んだ身。何も失うものはない」と仲間に語った安倍氏の精神的な基盤を、山口県萩市という、同氏のルーツに求めている。
 アベノミクスを象徴する「3本の矢」のたとえも、かつて長州藩と呼ばれた同市の元藩主、毛利元就が息子に説いた、1本の矢は簡単に折れるが3本の矢は容易に折れないとの、団結の重要性を伝える故事からとられているものだ。さらに、安倍氏が、同郷の名士、高杉晋作から名前の一字をもらい受けたと紹介し、郷里への思いの深さを示唆している。

 また、長州藩は、江戸末期に、討幕運動を率い、明治時代以降、多くの政治家を輩出した土地でもある。安倍氏の祖父である、岸信介氏もその一人。岸氏は世界大戦時、東条内閣の閣僚であったことからA級戦犯の容疑をかけられ、公職追放された経歴を持ちながら、公職追放免除後に、自由党に入党、自民党の結党に尽力し、後に総理大臣にまで上り詰めた異色の人物だ。総理大臣就任時には、日本とアメリカとの間の相互協力及び安全保障条約の成立に尽力した。
 
 同紙は、安倍氏にとって、祖父は、「勝てば官軍」のことわざ通り、「敗戦の屈辱」と「戦後の秩序」の象徴であると指摘し、こうした背景を持つ安倍氏ゆえに、「押しきせの」憲法の改正にこだわると分析している。

 こうした、持って生まれたルーツ故の、生粋のナショナリストとしての誇りや、戦時中の日本の責任問題についての姿勢が、韓国、中国ら、周辺諸国との軋轢に発展している同氏。人民日報傘下のグローバル・タイムズ紙は、同氏が選挙中に尖閣諸島について「日本の領土を死守する」と気炎を上げたことを紹介し、自民圧勝によって、日中の関係が悪化することに警鐘を鳴らしている。

 ただし、各紙とも、実際に安倍氏が憲法改正や、靖国参拝などの強硬姿勢を貫くかという点については、否定的な見解を示している。安倍氏の性格は、「ナショナリスト」であると同時に「現実的・実際的」であり、実際に、第一次安倍内閣当時、中国との関係を過去のどの首相にもひけをとらないほどに重視したと分析している。今後も、有権者の期待が「経済復興」にあることを承知しているがゆえに、当面はその施策に集中するだろうとの見方が強いという。

 グローバル・タイムズ紙は、安倍氏といえども、第一目標である経済復興を実現するためには、中国政府の協力が必須であり、両国関係を悪化させることはできないだろうと分析している。

 「ナショナリスト」、「実際家」、「戦後レジームを押し付けられた屈辱のルーツ」、「背水の陣を敷く起死回生の政治家」—-安倍氏を語る上で浮かび上がるこれらのキーワードは今後、どのように移り変わるのだろうか。

Text by NewSphere 編集部