「2040年ガソリン車禁止」は無謀なのか? イギリスの決定、賛否分かれる

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 深刻な大気汚染を改善するため、イギリス政府は、ガソリン、ディーゼル車の新車販売を2040年以降禁止すると発表した。同様の計画は、フランス政府も発表している。急速なクリーンカーへの移行は、明確な手段もなく莫大な費用がかかるばかりで、国民や企業の負担を増大させるという見方もあるが、移行は政策の有無にかかわらず、当然の流れだという意見もある。

◆ガソリン、ディーゼルが犯人?イギリスの大気汚染が深刻
 英王立内科医協会によれば、大気汚染はガン、ぜんそく、脳卒中、心臓病などと関連付けられており、イギリスでは毎年大気汚染が原因で4万人が死亡しているという。特に大都市では深刻な問題となっており、ロンドンでは今年に入ってわずか5日で、EUが定める二酸化窒素の年間暴露限度を超えてしまったということだ(CNN)。

 マイケル・ゴーブ環境相は、ガソリン、ディーゼル・エンジンが健康被害の原因となっているだけでなく、気候変動を加速し、地球と次の世代を傷つけているとして、新しいテクノロジーを受け入れる以外の選択肢はないと語っている。計画では、2050年までにすべての車が排ガスゼロとなることを目指しており、政府は14億ポンド(約2030億円)を投入する予定だという(CNN)。

◆クリーンカーの市場シェアはわずか。2040年は無謀か?
 ロイターによれば、英政府は環境団体が起こした訴訟で敗訴した後、大気汚染対策を取ることを迫られており、それも今回の決断に影響したようだ。しかしCNNは2040年の達成はかなり難しいと見ている。プラグイン・ハイブリッド車も含め、イギリスの電気自動車、燃料電池車の需要は2015年には40%増加しているが、市場全体の3%に過ぎないと報じている。

 英自動車製造販売協会のマイク・ホーズ氏は、現時点で、価格、車種、充電ポイントが消費者にとってのハードルになっていると指摘。ガソリン、ディーゼル車の完全な禁止は、現在の新車市場と、80万人以上の雇用を支えるイギリスの自動車産業を傷つけるとも述べ、消費者に自動車購入を促すポジティブなアプローチが必要だとしている(テレグラフ紙)。

 人気自動車番組「トップ・ギア」の元司会者、クエンティン・ウィルソン氏は、新政策には数兆ポンドという莫大な費用が必要だと述べる。「1500万台のディーゼル車を廃棄し、自動車工場を変える。ガソリンスタンドも全廃となれば、それが何を意味するのか考えて見て」という同氏は、そのつけを払うのは産業界と消費者だと断じる。イデオロギー的には問題はないという同氏だが、2040年までにリチウムイオン電池の充電1回で500キロ走れるような新しいインフラが構築されているのかは定かではないとし、いまだ立証済みとは言えない新テクノロジーを実際に支持することができるのだろうかと疑問を呈している。

◆クリーンカー時代の到来は明確。主役はやはり電気自動車
 一方、アストン・ビジネススクールの産業ストラテジーの教授、デビッド・ベイリー氏はクリーンカーのセールスは今後どんどん伸びると予測しており、2040年以降販売禁止にしなくても、おのずとガソリン、ディーゼル車は減る運命だとしている(CNN)。電気自動車の充電ポイントネットワークを運営するEcotricityの創業者、デール・ビンス氏も同様の考えで、自動車業界のクリーンカーへの移行は始まっており、2030年には、時代遅れの従来車を探すのも難しくなるのではと話している(テレグラフ紙)。

 ロイターは、多くの自動車メーカーにとってガソリン、ディーゼル車が無くなることを支持することは難しいが、未来に向かって動き出したメーカーもあると述べる。ボルボは、2019年以後はすべてのモデルを電気またはハイブリッド車にすると発表した。ハイブリッドのパイオニアで、電池のみの車に抵抗してきたトヨタも、昨年方針を転換し電気自動車の開発プランを発表している。

 対照的に、ガソリンより低燃費で二酸化炭素の排出が少ないことを売り物にディーゼル車に多大な投資をしてきたドイツの大手自動車メーカーにとっては、辛い状況となっている。フォルクスワーゲングループのアウディは、欧州市場のセールスの3分の2はディーゼル車だとし、ディーゼル車をより厳しい排ガス基準で未来に対応させていくとしている(ロイター)。イギリスの発表を受け、ドイツのメルケル首相はディーゼルを「悪者扱い」しないでと述べたが、同首相の報道官は、首相は電気自動車普及促進の立場でもあるとコメントしている(ロイター)。

Text by 山川 真智子