アジア人は「永遠の外国人」白人社会における差別 “模範的”態度も原因か

 ユナイテッド航空で乗客が引きずり降ろされた事件は世界中で話題になったが、手荒な扱いを受けたのは男性がアジア系だったから、という憶測も飛び交った。差別と言えば、アフリカ系、イスラム教徒がまず頭に浮かぶことが多い昨今だが、アジア人差別の場合は、その微妙な立ち位置や考え方のため、見過ごされているという指摘がある。

◆ユナイテッドだけじゃない。最近報じられたアジア人差別
 大きく報じられたユナイテッド航空の事件の他にも、同時期に2つのアジア人差別のニュースが報じられているので、簡単に紹介する。

 1つ目は、米カリフォルニア州で、Airbnbの予約をしたアジア系女性が、宿泊場所に近づいたときホストにメッセージを送ったところ、彼女がアジア人であることに気づき、ホストが一方的に予約をキャンセルしてしまった出来事だ。途方に暮れる彼女と同行者を偶然見つけた地元のテレビ局が、泣きながら事情を説明する彼女の様子を放映したことから、世に知られることになった。ちなみに女性は法律を学ぶ学生で、3歳の時にアメリカに移住してきたが、英語を完璧に話すアメリカ国民だ(ワシントン・ポスト紙)。

 もう1つは、ニュージーランドのアジア系女性起業家が、Visa payWave(かざすだけのスピード決裁用カード)の宣伝に起用されたところ、ニュージーランドの広告にアジア人は相応しくないとSNSで批判を受けた件だ。こちらの女性はシンガポール系中国人の家系の出身だが、生まれも育ちもニュージーランドだ(Stuff co.nz)。

◆国民なのに分かってくれない。アジア人は永遠の外国人
 アメリカで発表された学術論文によれば、アジア系には「永遠の外国人という固定観念」があり、白人社会のなかでは、たとえその国で生まれ育っていても、「他者」として扱われるという。例えば生まれはカリフォルニアであっても、本当の出身地は日本や中国やベトナムと答えることを期待され、アジア系はアメリカン・アイデンティティを共有させてもらえない。前述の2人の女性が差別された理由もここにあるように思われる。

 アジア系は他者として扱われるだけでなく、その立ち位置も微妙だ。ウェブ誌『クオーツ』に執筆した韓国系アメリカ人作家、マリー・ミョンオク・リー氏は、映画の世界のアジア人の扱われ方に注目する。同氏は、アジア人は不可解な永遠の外国人として信用されないものの、白人の中に混ざる疑似特権階級の脇役として現れることが多いと指摘する。そしてこれは社会におけるアジア人の立場を反映しており、「ほとんど白人」の模範的マイノリティという固定観念がアジア人自身のストーリーを否定すると同時に、他のマイノリティ集団からは、彼らを差し置いて経済力をつけたとして恨まれると述べている。

 見た目だけではなく、名前による差別もある。就職における差別もその一つで、米公共ラジオ網NPRによれば、カナダで行われた調査では、同じ資格を保持していても、アングロ系の名前よりアジア系の名前の求職者の方が、面接に呼ばれる率は28%低くなるという結果が出た。また別の研究では、アメリカでアジア人求職者が白人の名前を使って人種に関する記載を履歴書から削除した場合、呼び出される確率は2倍になるという結果も出ているという。このような差別は、多くのアジア系アメリカ人に名前を変えさせる圧力になっているとNPRは述べている。

◆アジア人は差別に耐える?黙っていては変わらない
 なぜ白人の多い社会でのアジア人差別がなくならないのだろう。NPRは、就職における差別の場合、アメリカにおいては、アジア人は概して教育水準や収入が高く成功者が多いことから、しばしば差別自体が気づかれていないと指摘している。

 一方中国系アメリカ人で人気コメディアンのジョー・ウォン氏は、ユナイテッド航空の事件を受け、「多くの中国人はメンツを失うのが怖くて声を上げようとしない。結果的にメディアや大衆からアジア人差別が軽視される」と述べ、アジア人の態度や考え方にも問題があるという見方を示した(ロサンゼルス・タイムズ紙)。

 宿泊を断られた前出のカリフォルニアの女性の場合は、偶然とはいえビデオで差別を訴えたことでニュースとなったし、ニュージーランドの女性の場合も、差別的なコメントに泣き寝入りせず、SNSや自身のブログで反論したことで、賛同する支援者を得ている。声の大きい者がばかりが勝つ世界というのは問題だが、言わなければ弱者の声は届かないのも事実だ。現状維持を良しとせず、差別を差別と指摘できることが、アジア人の地位の向上のための新たな一歩なのだろう。

Text by 山川 真智子