ゲイを認識する第6感「ゲイダー」の正体を明らかにする

著者:William Coxウィスコンシン大学マディソン校 心理学科 Assistant Scientist)

 子供は「外見で中身を判断してはいけない」と言われて育つことが多い。

 それでも、他の人に関することが直感で分かると信じている人は多く存在する。黒人男性は危険だとか、女性はいいリーダーにはなれないだとか、お洒落な男性はゲイだといったステレオタイプはこういった印象に影響を与えることがよくある。

 ゲイの男性やレズビアンに関するステレオタイプは、ステレオタイプそのものとしてよりも「ゲイダー」を装って使用されることが多い。「ゲイダー」(「ゲイ」と「レーダー」の混成語)は1980年代に初めて登場した言葉で、ゲイを認識する「第6感」を意味する。直感と呼ばれるものの多くがそうだが、ゲイダーもステレオタイプに多分に依存している。

 多くの人がステレオタイプは間違いであると考えているものの、それを「ゲイダー」と呼ぶことで、ファッションセンス、職業、髪型のようなステレオタイプな特性により誰かがゲイであるという結論に飛びつくことをよしとしている。しかしながら、一見したところ人々が正確なゲイダーを持っているということを証明するかのような調査結果が、数人の研究者により発表された。

 最近の研究で、同僚と私はゲイダー神話の定着が、意図しないネガティブな結果に結びついているということを証明できた。また、いくつかの過去のゲイダー研究における数学的な欠陥も発見し、それにより研究結果は疑問視されている。

◆偽装されたステレオタイプ
 同僚と私は、普段ステレオタイプなものの見方をしないようにする人でさえも、ゲイダーがあると信じ込まされるとゲイに対してステレオタイプな見方をする可能性が高いのではないかと考えていた。

 この案を試すため、私たちは実験を行った。何人かの参加者にはゲイダーは実際の能力だという科学的根拠があると話し、他の参加者にはゲイダーはステレオタイプを意味する言葉でしかないと伝え、第3のグループにはゲイダーについては何も話さなかった。

 参加者はその後、SNSのプロファイルから抜き取られた情報を基に、特定の男性がゲイかストレートか判断させられた。幾人かの男性はファッション、ショッピング、演劇等ゲイのステレオタイプに関連する趣味(もしくは「いいね」)があった。その他の男性はスポーツ、狩猟、車等ストレートのステレオタイプに関連する趣味、もしくは読書や映画といったステレオタイプには無関係の「ニュートラル」な趣味があった。これにより人々がどれほど頻繁に、ステレオタイプなゲイの趣味に基づいて特定男性がゲイだという結論に飛びつくかどうか測定することができる。ゲイダーが本物だと言われたグループは、コントロールグループよりステレオタイプが非常に頻繁に見られた。また、ゲイダーはステレオタイプであると言われた参加者は、ステレオタイプな物の見方をすることが顕著に減った。

 これで、ゲイダーがあると考えることにより、ステレオタイプではないように見せかけたステレオタイプが増えるという私たちの考えが裏付けられた。

◆何が問題か?
 ある意味において、ゲイダーという考え方(それが単なるステレオタイプだったとしても)は良い意味では便利だし、悪い意味でも害はないように感じられる。しかし無害であるように感じられるという事実自体、悪質な影響があるのではないだろうか。「ああ、あの男性に私のゲイダーが反応してる」というように無害であるかのように、もしくはジョークを装って、ゲイダーを利用してステレオタイプについて話すことができる。そうすることでステレオタイプは矮小化され、たいしたことではないように見えてしまう。

 しかし私たちはステレオタイプがいくつものネガティブな結果を生むということを承知している。だからこそ、それを助長するようなことは決してしてはならないのだ。

 まず、ステレオタイプにより偏見が生まれる可能性がある。私たちは偏見に基づく攻撃の研究において、他の部屋にいる対象者に電気ショックを与える権利を参加者が持つというゲームを行った。参加者はこの対象者について1つのことしか知らされなかった。対象者はゲイであるということか、対象者はショッピングが好きだということのどちらかだ(人は、ショッピングが好きな男性はゲイであると思い込むことが多い)。

 つまり、ある条件下では参加者は対象男性がゲイであるということを知っており、別の条件下では対象男性はゲイである可能性があるが、それは確定ではないということになる。そして、他の誰もそのことを知らない(だから偏見を持っていると責められることはない)。

 この条件は、ひそかに偏見を持っている人々にとっては特に重要だった。彼らは自身が偏見を持っていることに気づいており、特にそれを問題視していない。しかし他人にはそれを知られたくないと考えている。私たちはこういった人々を十分に確立された質問事項で識別することができる。また、彼らは偏見を持っていても大丈夫だと見なされる条件下でしか、偏見を持っていることを明らかにしないということも分かっている。

 予測した通り、密かに偏見を持っている人々はゲイだと確定している男性に電気ショックを与えることを避ける傾向にあったが、ショッピングが好きな男性には非常に高レベルの電気ショックを与えた。もし最初の男性にショックを与えたら、偏見を持っていると責められるかもしれない(「彼がゲイだったからショックを与えたんだな!」)。しかし第二の条件下においては、参加者が偏見を持っていると誰かに責められたとしても、それはまことしやかに否定できる(「彼がゲイだとは思わなかったんだ!」)。つまりステレオタイプは、仕返しされる恐れなしに偏見を表現するという機会を人々に与えているのだ。

 またステレオタイプは、例え無害であったとしても、色々な理由から厄介な考え方なのだ。ステレオタイプがあると、誰かのことを知る前に、その人について狭義的に考えるようになってしまう。差別や抑圧を正当化し、ステレオタイプされた特定のグループにとっては、鬱やその他のメンタルヘルス問題につながる可能性すらある。ゲイダーという仮面をかぶったステレオタイプを推奨することは、直接的もしくは間接的にステレオタイプの下流の結果につながるのだ。

◆ゲイダーが実際に正確だったらどうする?
 ゲイの人々に関するステレオタイプは真実の場合もあり、ゲイダーが正確だという根拠になるのだという研究者もいる

 このような研究において、研究者は実在のゲイおよびストレートの人々の写真やサウンドクイップ、ビデオを参加者に見せ、参加者は誰がゲイで誰がストレートかカテゴリー分けした。

 写真やクリップ、ビデオに映っている人々の半分はゲイで半分はストレートであったため、参加者の正解率が50%を大きく超えるようであれば、ゲイダーが正確であるということになる。その結果、参加者の正解率は60%程度であり、人間は確かに正確なゲイダーを持っていると研究者は結論付けた。多くの研究でこのような結果が再現され、これはゲイダーが存在する証拠であると、著者やメディアは謳った。

◆結論は急がず…
 しかし最近の2つの論文にて証明できたように、このような過去の研究は全て数学的な誤りを含んでいる。実のところこの誤りを正せば、正反対の結論が出るのだ。多くの場合、ゲイダーは非常に不正確であるという結論である。過去の研究にて人々のゲイダーの正確性は50%を大きく超えたというのに、どうしてなのだろう?

 このような研究の大前提に問題があるのだ。問題とはつまり、50%以上の対象者がゲイであったということだ。実世界では大人のわずか3-8%程度がゲイ、レズビアンもしくはバイセクシャルであるとされている。

 60%以上の正確性があるとされるのは、どういうことだろうか?このような研究において、ストレートの対象者に対して60%の正解率であったということがどういう意味か考えてみよう。もし誰がストレートか、60%以上の正確性で分かるということは、40%の場合ストレートの人々が誤ってゲイだとカテゴライズされているということだ。95%の人がストレートである実世界において、60%の正確性ということは、100人いるとすればそのうちの38人がゲイであると誤って認識され、たった3人のゲイのみが正しくカテゴライズされるということになる。

 つまり、ラボでの研究にて60%の正確性があるということは、実世界で誰がゲイであるか認識する場合は、93%誤りであるということになる(38 / [38 + 3]=92.7%)。もしゲイのように見える人がいて、あなたのゲイダーが反応したとしても、その人がストレートである可能性の方が高いということだ。実際にゲイである人々の数以上に、ゲイのように見えるストレートの人の数が多いのである。

 もしゲイダーが思っていたほどうまく機能しないことを知ってがっかりしているなら、いい解決方法がある。人の洋服や話し方で勝手に判断してしまうよりも、おそらく直接聞いたほうが早いのだ。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Contributors: Alyssa Bischmann(Ph.D. Student studying Counseling Psychology, University of Nebraska-Lincoln), Janet Hyde(Professor of Psychology, University of Wisconsin-Madison), Patricia Devine(Professor of Psychology, University of Wisconsin-Madison)
Translated by Conyac

photo via Scott Schiller/flickr, CC BY-NC
The Conversation

Text by The Conversation