4人に1人が「自殺考えた」…深刻な日本の自殺問題 海外指摘やデータから考える背景

 厚生労働省が3月21日に発表した意識調査によると、「本気で自殺したい」と考えた成人男女は23.6%、4年前の調査より0.2ポイント増え、8年前の平成20年より4.5ポイントの上昇となった。その回避策は「趣味や仕事などで気を紛らわせるように努めた」(36.7%)、「家族や友人、同僚ら身近な人に悩みを聞いてもらった」(32.1%)など、周囲の環境や人間関係を糸口に好転させた様子がうかがえる。

 一方、他人の欠点や過ち、自分の思うマナーや考え方と合わない人に対して攻撃的な人が増えたとされる「不寛容社会」という言葉も耳にするようになった。その定義や統計的なデータで実態を示すのは難しいが、そういった捉え方をする人がいるのは事実。

自殺者が増えている要因にはなにがあるのか。またその対策について考えてみたい。

◆日本の自殺者の推移
 我が国の自殺者のピークは2003年の34,427名だったが、その始まりは1998年に前年を30%ほど上回ったところからだ。1991年に崩壊したバブル経済の結果、景気の後退、リストラなどが続き、その限界に達した中高年層がこの年以降、自殺者の多くを占めるようになったとされる。しかし2011年から自殺者数は減少に転じ、以後は微減で推移している。転職や再就職が難しく、家族と社会の間で孤立しやすい中高年男性は、景気と自殺との関連性が強いとされるが、事実、経済はいまそれほど悪い状態にはない。

 この一連の推移を年代別の自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)でみると、40代や50代はすでに2003年から減少。一方、あまり落ちていないのが20、30代で、むしろ微増気味ともとれるのが19歳以下。2015年の自殺死亡率(カッコ内は前年値)は19歳以下2.5(2.4)、20代18.5(20.8)、30代19.7(21.2)、40代22.0(23.0)、50代25.6(27.1)で、20代から50代の間で差が無くなってきている。

◆世界でも高い日本の自殺率
 WHOは2013年の日本の自殺者の率は、10万人当たり21.4人であり、先進国平均の12.7人を大きく超えているとして注意を呼び掛けた。この自殺者率はOECD加盟国のなかでリトアニア、韓国、ハンガリーに続き4位。ちなみにアメリカは同13位。けっして低いとは言えないが日本に比べればかなり下の方だ。ちなみにOECDのなかでもっとも自殺率が低いのが南アフリカ共和国だが、平和そのものというわけでなく、困窮の結果、死を選ばず犯罪に走る率が高いとの見方がある。

 東海道新幹線内で年金受給者の男性が焼身自殺を図り、巻き添え死まで発生した事件が起きた2015年6月、BBCは有識者などを取材し、日本人の自殺の背景を次のようにまとめている。「金銭的な苦境」がベースにあり中高年層の自殺の原因となっているが、近年は若い世代にも経済的に苦しむ人が増えている。「孤立」する社会状況があり、不満などを訴える先がない。デジタル機器などの発達で、引きこもりになりやすい環境も進んでいる。「精神科医の不足と受診習慣の欠如」でカウンセリングの機会が少ない。

◆もうひとつの不名誉なランキング
 イギリスのチャリティー団体Charities Aid Foundationでは毎年、アンケート調査などをベースに「不案内な人を手助けした」、「お金を寄付した」、「ボランティアに参加」した人の率を世界各国で調査し、『CAF WORLD GIVING INDEX(世界寄付指数)』として公表している。それによると、140ヶ国中日本は総合で114位。なかでも「不案内な人を手助けした」人の率はさらに低く、138位だ。なお最下位は中国でどちらも140位。一方、総合1位は僧侶への施しが日常的なミャンマーで2位がアメリカ。以下、3位オーストラリア、4位ニュージーランド、5位スリランカ、6位カナダ、7位インドネシア、8位イギリスとなる。なお、「不案内な人を手助けした」の1位はイラクで、困っている人が周囲に多すぎて助けざるを得ない事情があるのかもしれない。

 現在の社会環境や政情、宗教などが調査結果に影響しているので、日本の「不案内な人を手助けした」人の率が低くても、冷たい国民性と即断はできない。日本人の周囲のほとんどは日本人で、それぞれが社会の規範も知っていて、電車の乗り方がわからない人はほとんどいないだろう。移民が多い国は公共の場でも職場でも、日常的に支援を必要とする人が多いはずだ。

◆不名誉な結果から次のステップを模索すると
 しかし、それを割り引いても「不案内な人を手助けする」人の率を西欧諸国のレベルにもう少し近づけたいところ。BBCの指摘にあった「孤立」を生みやすい環境とも関係性を否定できない。さらに「不寛容」な人が増えているとすると、対立や孤立を強め、多様性を受け入れられない社会になっているとも解釈できる。

 日本人は国や企業や社会の統率のなかで団結力を増し、力を発揮してきた。しかしその特性だけでは、これからの時代は乗り越えられないのではないだろうか。不寛容さや他人を助ける習慣の弱さは、画一性や団結力がうまく機能していたころの名残とも言える。規律が厳しい社会や組織は自己責任や自助努力を掲げ、後れるものが悪いという考えになりがちだ。経済の成熟期を迎えた今も、その思考だけが残っている。余裕を失い、他人に不寛容になる人が多くなる構造かもしれない。

 自殺防止のひとつの解は、その逆の方向性のなかにあると言えそうだ。多様性を認め寛容になり、他人のために何かをしようとする一人ひとりの考え方や活動なのではないだろうか。

Text by 沢葦夫