子どもの夏休みが憂うつ? 働く親を悩ませる「夏休み格差」 お金で買う“有意義な体験”

 子どものいる多くの家庭にとって、最も憂うつな季節が間もなく到来する。それは、「夏休みシーズン」である。共働き家庭にとっても、専業主婦のいる家庭にとっても、夏休みの過ごし方は悩みの種。幼児期より、子どもが小学生になってからの方が、深刻な悩みを抱えている家庭が多いようだ。その理由の1つが、子ども達の「夏休みの質」である。

 今や、日本では、子どもの貴重な経験を「お金で買う」という時代が到来しつつある。結果、親の勤務形態や収入により、子ども達の夏休みの質に大きな差が出ているようだ。そして、その傾向は、アメリカでより顕著に表れている。日本とアメリカの「夏休み格差」の背景について探ってみたい。

◆自由になりたい専業主婦と「学童通いの毎日」に悩む共働き家庭
 アクサダイレクト生命が2014年に日本で行った調査によれば、専業主婦にとっての夏休みの悩みの上位3つは、「昼食の用意」「自分の時間が持てない」「自分のしたいことが出来ない」だった。体力・食欲共に旺盛な小学生の子ども中心に1日が動いていくことにストレスを感じている母親が少なくないようだ。

 調査からは、子どものゲームやテレビの視聴時間が増えること、用事ができたときの預け先がなく、子どもを長時間留守番させなくてならないことも母親の不安要素となっていると推測できる。

 一方で、共働き家庭の悩みの上位3つは、「昼食の用意」「遊びに連れて行ってあげられない」「費用がかかる」となっている。夏に、野外体験やスポーツ、2学期の先取り学習など、様々な体験を重ねている子どもがいる一方で、学童と自宅との往復の毎日を送る子どもは少なくない。

 多忙な親に代わって子どもに特別な体験を提供する民間の学童や夏期講習、宿泊イベントに申し込むこともできるが、短期間でも予算が3万円は下らず、中には10万円以上かかるものもある。保育料が月額数千円という公立の学童保育の実に10倍以上に膨らむこともあるというわけだ。

 夏休み強者と弱者を分断するのは、「有意義な経験ができるかどうか」であり、その点で、経済力がモノを言う時代になりつつあるのだ。

◆アメリカで、子どもをサマーキャンプに参加させなければいけない理由
 一方で、夏休み期間が2ヶ月~3ヶ月と長期のアメリカでは、この「夏休み格差」がより顕著に表れている。夏休み、アメリカの共働き家庭の子どもは、学びや遊びの場を提供する「サマーキャンプ」で過ごすのが一般的だ。

 日本では、小学生の子どもに留守番をさせる家庭は珍しくないが、アメリカでは12歳以下の子どもの留守番を禁じている州は少なくない。さらに、低学年の子どもを1人で長時間公園で遊ばせると、「ネグレクト(育児放棄)」だと疑われ、通報されることもあるため、夏休みの子どもの居場所確保は、親にとって日本以上に切実な問題となっている。

◆サマーキャンプ代が高すぎて困窮…悩むアメリカの共働き家庭
 実は今、アメリカでは、サマーキャンプの代金が割高で、「サマーキャンプ貧乏」に陥る家庭が珍しくないという。先日、米紙ニューヨークタイムズ(電子版)が報じたところによれば、夏休みにかかるお金の平均は、子ども1人につき958ドル。日本では、母親が正社員の場合、夏休みに子どもにかける費用の平均が4.3万円ということを踏まえると、家庭の金銭的負担はかなり大きい。

 公立のサマーキャンプは、比較的割安であるため、申込者が殺到してあっという間に応募を締め切ってしまう。希望のキャンプに参加できなかった家族は、1週間200ドルを優に超える民間運営のサマーキャンプを選ばざるを得ないという。同紙によると、「映画に出てくるようなサマーキャンプは、1週間で500ドルは下らない」という声も。

◆夏休みの過ごし方によって、学力に大きな差がついている場合もある
 サマーキャンプは、子どもの体験だけでなく、学力にも関わる問題だ。野外体験、勉強、レクリエーションなど、良質なサマーキャンプをいくつもかけもちできる家庭の子どもと比較し、サマーキャンプを自由に選択する経済力のない家庭の子どもは夏休みの間に計算力や読解力が低下し、新学期の勉強に大きな影響をきたすという。

 夏休みは元々、19世紀に子ども達が農場の作物の収穫を手伝うために設けられた、という説があるが、長すぎる夏休みに「負の遺産」との声も上がっているようだ。

 専業主婦のいる家庭でも、猛暑や台風の日には、行く場所がなく、部屋にこもってゲームやテレビ視聴にふける子は少なくない。図書館や公民館で良心的な価格で工作教室や自然観察教室が行われているが、参加者の数は限られているし、そういった機会があることを親自身が見つけてこなければ、子どもの参加には至らない。

 どの子も等しく充実した夏休みを送ることのできる機会を増やすにはどうしたらいいか、今後、保護者と地域、学校、さらには企業が一体となって、解決策を探っていくべきだろう。

Text by 北川和子