元暴力団員が社会に復帰できるように… 海外メディアが称賛する人工ボディ技師の姿勢と技術

「勇敢な女性」英デイリー・ミラー紙(電子版)では、ある日本人女性をこのように称えた。彼女の名前は、福島有佳子さん。大阪でオーダーメイドの人工ボディ製作を手がける『工房アルテ』で人工ボディ技師として働いている女性で、そのキャリアは実に20年以上。福島さんが他の人工ボディ技師と異なる点は、元暴力団組員のために“小指の義指”を作り続けていることだ。

 義指作りを通して多くの元組員の社会復帰をサポートしてきた福島さんの業績は、これまでにも数々の国内メディアで報じられ、2014年には内閣府『女性のチャレンジ賞』を受賞。また、2015年には日本政府が発行する海外向け政府広報誌『Highlighting JAPAN』にも紹介された。日本国内ではややタブー視されがちなテーマだが、ここにきて海外メディアから大きな注目を集めたようだ。デイリー・ミラー紙は、「忌まわしい過去と決別したいと思っていても、小指が欠けていると、自分がかつてヤクザだったということが確実に社会に知られてしまう。しかし今は、あるひとりの女性のおかげで、その問題は解決しつつあるようだ」と福島さんの功績を褒めたたえる。

◆「家族からの批判にもめげず……」プロフェッショナルな姿勢を真摯に報道
 福島さんの仕事を取り上げた海外メディアの記事からは、好奇の視線や日本社会への批判的な内容はあまり見当たらず、ただただ彼女のプロフェッショナルな仕事ぶりに敬意を持って報じているように感じられる。

「彼女は、驚くほど細部にまでこだわっており、1,000種類以上の肌のトーンを使い分けて(義指を)作ることができる。彼女の作る義指のおかげで、多くの人々が、仕事を見つけたり、さらには新しいパートナーに巡りあうことができた。また、彼女は、日本でこの仕事を行っているただひとりの人物。そのため、引っ張りだこの状態だ」(デイリー・ミラー)

 印インディア・トゥデイでは、「Lady Finger(レディ・フィンガー)」のタイトルでこのニュースを紹介。「フクシマ氏は、ヤクザのためのサービスとしてこの仕事を行っているわけではないという。しかし、同時に“もう一度チャンスが欲しい、そして自身の子供の良きロールモデルになりたいと思っている男性のためにやっています”とも語った」という一文で記事を締めくくった。

 福島さんは、非常に多くの困難を乗り越えながら、長年にわたって義指作りに従事されてきたそうだ。デイリー・ミラー紙でも、「元組員が再び通常の生活に戻れるようサポートしているにもかかわらず、フクシマ氏は批判を受けた。時には、自身の家族からでさえも」と、そのごく一部を紹介した。数々の逆境にもめげず、世のため人のためになるものを作り続けてきた不屈の職人魂は、文化や言語を超えて人々の心を打つのだろう。

◆海外メディアから見た“ヤクザ”と“ユビツメ”の文化
 英ガーディアン紙は、日本の“ヤクザ”が小指を切り落とす理由や、ヤクザのルーツや文化、さらには山口組の全面抗争や暴力団対策法についてまで事細かに次のように説明している。「“ユビツメ(指を切り落とす、と書く)”は、封建時代に“博徒”と呼ばれるギャンブラーの間で行われていた習慣が発祥とされる。この“博徒”が、ヤクザの前身と考えられている。借金を返済できなくなった博徒は、左手の小指の先を強制的に切断させられた。これにより、その男性の剣士としての能力は低下し、弱くなるのだ」

 さらに、“ユビツメ”の詳細な手順も説明。「一般的なイメージと異なり、この“ユビツメ”の儀式は自主的に行われることはまれである」とし、場合によっては第二関節、さらには右手小指まで切り落とす場合があることも伝えている。

Text by 月野恭子