「碧志摩メグ」の公認撤回、なぜ海外も注目? G7での安倍首相の立場を悪くするとも

 三重県志摩市の海女の萌えキャラ「碧志摩メグ」が、「性的な部分を過剰に強調していて不快だ」という一部の現役海女らの抗議を受けていた問題で、志摩市は5日、同キャラクターの公認撤回を発表した。志摩市は来年5月のG7首脳会議(サミット)の開催地でもあることなどから、海外でもオタク系メディアばかりでなく、一般メディアでもこの問題がしばしば取り上げられてきた。今回の公認撤回については、お堅い経済紙として知られる英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)が詳しく報じている。

◆「いやらしい衣装と、海女という職業を軽く見たプロポーション」
 FTは、『日本のG7開催市が、MANGAマスコットを性差別的とみなして取り下げ』という見出しで報じている。「碧志摩メグ」は、海女をモチーフにした長い黒髪の17歳の少女。最近ではほとんど見られなくなった白い伝統的な海女の衣装をアレンジした姿で、「巨乳」「はちきれそうな太もも」といった「萌え要素」が加味されている。FTは、これを「いやらしい衣装と、海女という職業を軽く見たプロポーション」と表現。そうした捉え方をし、不快感を覚えた現役の海女ら地元住民が今年8月、市に約300人分の署名を提出して、キャラクターの撤回を求めていた。

 志摩市の大口秀和市長は、「およそ7割の海女に賛同をいただいたが、3割は公認を取り消してほしいということだった。そうしたことを考慮し、撤回の申し出を受けることにした」と説明した。FTは、この「碧志摩メグ」を巡る騒動を3つの論点で捉えている。

◆安倍首相にとってはG7に向け「デリケートな問題」
 同紙は、「バラク・オバマや、アンゲラ・メルケルといったリーダーたちが5月に集う志摩市が、17歳のマスコット、碧志摩メグの公認を撤回すると発表した」という書き出しで今回の件を報じ、安倍首相がG7で受ける不利益に言及。「女性の職業」に対する差別が指摘されているだけに、「ウーマノミクス」を掲げる安倍首相の経済政策への影響を懸念する。「G7は安倍晋三首相の重要な見せ場になるが、この件はそこにデリケートな問題を投げかけるだろう」と指摘している。

 また、日本の漫画・アニメにはびこる「児童ポルノ」に対する懸念も示している。国連の特別報告者が10月に日本に対して「子供を極端に性的に描いた漫画」を禁止するよう呼び掛けた件と結びつけ、志摩市のケースは「日本に広がる過度にセクシャルな漫画に対する懸念を象徴している」と述べる。ただし、同キャラクターが実在の海女をモデルにしているわけではなく、あくまで架空のファンタジックな存在だということも強調している。

 さらに、海女をはじめとする日本の伝統産業の後継者不足と高齢化の問題を指摘。伊勢志摩地域の海女の現状を、平均年齢は65歳、1949年には6109人いた同地域の海女は昨年の統計では8分の1程度の761人に減っていると紹介したうえで、「若者たちは、安定収入が得られないことやダイビングの危険性を、海女になりたくない理由に挙げている。これは、日本の伝統産業全般に共通する傾向だ」と記している。

◆“エッチの母国”でも誰もがエッチなわけではない
 一方、もともと「萌えキャラ」に肯定的な海外オタクたちの見方はどうか。米アニメ情報サイト『Anime News Network』の本件を伝える記事には、多くの読者コメントが寄せられている。

・この問題を解決するのは簡単だ。今の衣装の代わりに現実の海女のようなウェットスーツを着せ、ショートカットにすればいい。それなら批判もなかったはずだ。(この書き込みへの返信)以前のマスコットはそんな感じだった。そして、全然人気がなかった。
・とてもがっかりだ。メグちゃんは自治体のもとを離れるだけで、何らかの形でサポートを続けるんだろうが……
・パール・ダイビングは、若い世代を惹きつけない限り数十年で滅びる。もし、若い人たちがこのマスコットを気に入っているのなら、年寄りの意見は無視するべきだ。
・真面目なところ、残念だ。このキャラクターはすごくかわいかったし、全く攻撃的とは言えないからね。

 ゲームサイト『Playstation Lifestyle』も、この問題を取り上げている。同サイトは、日本製のゲームの中にはもっと「ecchi=エッチ」なキャラクターがいくらでもいるとし、「碧志摩メグ」は「むしろ退屈で保守的だ。みんなもそう思うだろう?」と記す。そして、日本の「萌えキャラ」が児童ポルノか否かという議論は、もう何年も続いているとしている。そのうえで、今回の騒動により、日本社会全体が「ニッチなゲームのエッチ」を受け入れているという、海外オタクの幻想が崩れたと指摘する。「ニッチなエッチの母国ですら、誰もがタッチスクリーンで14歳のHカップを揺らそうとするわけではないのだ」

Text by 内村 浩介