憧れ?嫌悪?ヤクザは西洋にどう映るのか?ベルギー写真家の作品に再び脚光

 ベルギー出身の写真家、アントン・クスタース(Anton Kusters) 氏の2011年の作品「Yakuza」が16日、クスタース氏のコメントとともにエコノミスト誌に取り上げられた。2009年、10ヶ月の交渉期間を経て山口組の内部を撮影することを許可された氏は「そこは実際の暴力よりも威圧・体裁・コントロールなどに重きをおく、不思議な世界だった」と言う。

◆イメージと現実の大きなギャップ
「本当は、『キル・ビル』のような、人々が刀を振り回して首を切り落とし、通りが血であふれかえるような世界を想像していた」とクスタース氏。2年間にわたる取材でカメラに収めたのは、暴力よりもむしろ家族の絆にも勝る絶対の師弟関係やヒエラルキー、そして刺青や指つめなどの風習の、美しく幻想的な光景だった。

 2011年の作品発表時にはBBCやニューヨーク・デイリーニュースなどのメディアに取り上げられた。組長以下と親しくなり仲間内に迎えられたクスタース氏は、撮影最後の晩、卑猥なナイトクラブに招待されている(BBC)。その後も、作品はプリント媒体、オンライン媒体、テレビなども含めて、50以上のメディアで取り上げられたという。(アントン・クスタース・ホームページ)

◆世界が注目するヤクザ・ワールド
 2011年の作品が今また脚光を浴びたのは、先月から不穏な動きを見せている日本のヤクザ界に世界が注目している証拠だろう。山口組分裂の動きについては、今月になってガーディアン誌やABCが報道しているほか、昨年の工藤會トップ野村悟逮捕についてはドイツのヴェルト紙が大々的に報じている。

 ヤクザがここまで西洋の注目を集めるのは単なる好奇心や憧憬からではなさそうだ。世界最大規模の犯罪組織ランキングで山口組は、昨年9月のフォーチュン誌で2位、12月のビジネスウルフ誌では1位に輝いている。その年収は800億ドルとされる。

◆なぜ今ふたたび「ヤクザ」なのか?
 これほどの経済効果があれば、ヤクザの動向にメディアが注目するのも納得できる。しかし、一般的にはヤクザはまだまだ憧れの対象という側面が強いようだ。エコノミスト誌のコメントではそのファッションの優雅さが賞賛される一方で、日本人からの「このチンピラたちに対する西洋の崇拝は理解できないし、今後しようとも思わない。写真は美しいが、それによって何をアピールしたいのかわからない」という批判もある。対して、「日本人の中にもヤクザ崇拝はある」というコメントもあるが、アジア系からの「[批判には] 同感だが、西洋社会で増えつつある反社会活動から、若者がヤクザのような『悪い男』に惹かれるのも理解できる」との意見も一考の余地がある。

 結局、アメリカで高い人気を誇るマフィア・ドラマ「ザ・ソプラノズ」がイタリア系に不評なのと同様、外部からはすべてが美しく見えるということなのかもしれない。

Text by モーゲンスタン陽子