「死ぬ権利」認められるべきか?英米で異なる決定 日本では議論遅れる

 11日、ほう助による自殺を合法化する「死ぬ権利」法案が、米カリフォルニア州で可決された。一方、同様の法案がイギリス下院では同日否決されている。「死ぬ権利」を認めるかどうかを巡っては賛否両論が激しく、意見が分かれている。

◆カリフォルニアは、個人の選択を尊重
 カリフォルニア州議会が可決したのは、病状末期にある患者が、医師の処方する薬で命を絶つことを認めるという法案。発効すれば、一定の条件を満たした人は、ほう助を受けて自殺することが可能になる(AP)。

 現在アメリカでは5州で「死ぬ権利」が認められている。APによれば、今回の法案の後押しとなったのは、脳腫瘍で余命わずかだったカリフォルニア州在住のブリタニー・メイナードさんが、「死ぬ権利」が合法的に認められているオレゴン州に移住し、自らの意志による死を選択した昨年の事件だったとされる。

◆イギリスでは、命の尊重を重視
 実は同様の法案は、イギリスでも審議されており、こちらは反対多数で否決された。法案の内容は、余命6ヶ月以下と宣告された人は、自力で飲める場合に限り、処方された薬物により死を選ぶことができるというもので、世論調査では82%のイギリス人がこのような法案を支持すると答えていた(ロイター)。

「死ぬ権利」を支持する団体『Dignity in Dying』のサラ・ウートン氏は、法案否決は、政府がどれだけ世論の声に疎いかを示すものだと批判。毎年300人以上の末期の病状にあるイギリス人が、孤独で危険な方法で自宅での死を選んでいると指摘し、死にゆく人々に選択を与えるだけでなく、よりよい保護をするという意味でこの法案は必要だったと述べた(ロイター)。

 賛成派の議員からは、「自分の終わりは自分でコントロールしたい」、「自分が同じ立場にいれば死ぬ権利を認められたいはず。他人の権利を否定できない」などの声が上がったという(英インデペンデント紙)。

 一方、クリスチャンの議員は、「法案は命を尊重することへの挑戦。命は神からの贈り物であり、痛みや苦しみだけでなくすべてを伴うもの。終わりをもたらすのはわれわれの役目ではない」と述べた。医師でもある議員は、「(法案は)、人が人を殺すことの意味を変え、合法化するもの。多くの死に関わってきたが、患者がどんなに病んでいても、死がよい処置であると考えたことは、医師として一度もない」と話した(インデペンデント紙)。反対派はさらに、「死ぬ権利」が認められれば、家族の重荷になるのを避けるため、自らの命を絶たなければというプレッシャーを弱い立場にある人に与える恐れもあると指摘した(ロイター)。

◆スイスが最後の救い?
 現在、前述の米5州以外に安楽死を合法としているのは、スイス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク。『Journal of Medical Ethics』 に発表された研究によれば、スイスにはほう助による自殺への明確な規制がなく、外国人も受け入れるため、2008年から2012年の間で、年間150人から200人の「suicide tourist(自殺旅行者)」が海外から訪れている。年齢は23歳から97歳までと幅広く、神経系疾患(47%)や、末期がん(37%)の患者が多くをしめる(アトランティック誌)。

 研究は、「スイスに行く」がほう助による自殺の婉曲表現になっていると指摘。これが、自殺観光でスイスを目指す人が多いイギリス、フランス、ドイツでの法改正の議論につながったと見ている(アトランティック誌)。

◆「尊厳死」さえも広がらない日本
 日本の場合、「死ぬ権利」の議論はどうなっているのだろう。日本尊厳死協会の副理事長、長尾和宏氏は、同協会ホームページのコラムで、日本では「尊厳死」と「安楽死」の区別さえできていないと指摘する。

 同氏によれば、「尊厳死」とは、「自然死や平穏死と同義で」、「無意味な延命措置を中止し、人間としての尊厳を保ちながら死を迎えること」で、「安楽死」とは「苦痛から患者を解放するために意図的・積極的に死を招く医療的措置を講ずること」だという。欧米ではそもそも「尊厳死」は当たり前のことと捉えられており、「安楽死」の議論が進んでいるが、日本では「尊厳死」さえも、法的担保がされていないのが実情らしい。

 同氏は、「安楽死」よりもまずは「尊厳死」への議論を深めることが必要だという考えで、尊厳死の希望を表明する書類、「リビング・ウィル」についての国民的議論を始めるべきだと述べている。

Text by 山川 真智子