日本の捕鯨論文、「鯨を殺した」から海外誌が却下? 日本と他国の主張が平行線

 日本が主張してきた科学的な調査研究を前提とした「調査捕鯨」が、あらためて問題となり、主張は真っ向から対立している。その最大の論点の一つが調査捕鯨の結果としての「論文」だ。海外メディアは一斉にバッシングを始め、それに日本の捕鯨団体はどう応えるのか。

【IWC、調査捕鯨禁止を勧告】
 ハフィントン・ポスト(米国版)ダーコ・ボンディック記者によると、1986年の商業捕鯨禁止にともない調査捕鯨として行われてきた活動が、国際司法裁判所で否決され、今月15日に開かれ国際捕鯨会議でも最重要案件となったが、日本は捕鯨の再開を固執している、という。

 英ガーディアン紙、アーサー・ネスレン記者によれば、国際捕鯨委員会でも、日本は国際捕鯨委員会の決議を無視しているとして問題となっている、という。

【調査捕鯨の論文数、日本発表と海外機関発表とで大きく異なる】
 日本は、こと捕鯨にかんしては、四面楚歌、孤立無援の状況である。その日本の調査捕鯨の存在理由となってきたはずの科学論文について、疑念が提示されている。

 英ガーディアン紙、ジャスティン・マッカリー記者は記事の中で、国際捕鯨委員会(IWC)の日本代表委員、国際水産資源研究所所長の森下丈二氏は、日本は南氷洋での科学調査捕鯨の結果として666本の査読付き科学論文、つまり厳格な審査が存在する学術雑誌への投稿論文を有するとする驚くべき発表を行ったが、この数字は国際司法裁判所が今年3月に捕鯨中止を勧告した際に公表された数字とはかけはなれたものだった、と記載している。

 しかし日本の水産庁国際課によれば、調査捕鯨の科学的成果の大部分は、森下丈二氏によるIWC科学委員会への文書提出であり、この論文数については、正式に提出した査読付き論文、査読なし論文などについての、ある時点での総数であるという事実を明確にしておきたいと、論評している。

 さらにガーディアン紙では、捕鯨中止を主張するオーストラリアは、日本の論文は2005年以降わずかに2本のみであって、調査捕鯨という科学的根拠を失ったとし、しかもその論文は9頭のクジラ虐殺の結果によるものにすぎないと主張した、という。

 捕鯨問題をめぐっては、このような純粋に科学上の事実経過についても鮮明に見解の相違があり、これがさらなる問題の原因となっている構図を見て取ることができる。

【IWCによって認められていた「調査捕鯨」活動:JARPA IIプロジェクト】
 IWC議長ピーター・トムカ氏は、この2005年以降のJARPA IIにおいて科学的にえられた結果はほとんどなかったと結論し、JARPA IIは3600頭のミンククジラが捕獲されにもかかわらず科学的成果はきわめて少なく、日本は今後、JARPA IIプロジェクトから手を引くべきだとした、という。

 一方、調査捕鯨を推進する日本鯨類研究所はこれらの問題提起には答えることなく、1988年から2013年において日本には130本の査読論文があり、同機関のウエブサイトにはさらに論文リストがあって、その大部分が未発表かIWCへの報告という形をとっており査読論文ではないと主張した、という。

【論文が査読されたかどうか、それが問題なのか ―― というスタンス】
 国際動物福祉基金、地球クジラ計画最高責任者、パトリック・ラマージ氏は「累々たるクジラの死と、日本の税金の無駄使いとしてのお粗末な科学」であり「日本は査読論文の数よりも書類の量を言いたがる。IWCへの大量の文書提出があったのは事実だが、査読論文レベルの結果を出すこととは別だ。森下氏は故意にこの問題について委員会を混乱させ、日本の科学者は海外の異説に惑わされるべきではないなどというもっともらしい文化論的議論に持ち込もうとしている。しかし国際司法裁判所の対応はもう明確」と論文数問題を論評した、という。

 日本鯨類研究所によれば、調査捕鯨の目的は、南半球でのミンククジラの総数、海洋エコシステムにおけるクジラの役割、環境変化がクジラの頭数に与える影響を研究することにある、としている。

 水産庁国際課によれば、森下氏が言及した文書はIWCにより精査されるが、査読論文でないとしても同委員会からの質問には応答して議論できるようにする、という。

【「クジラを殺した」というだけで査読しない】
 元国際捕鯨委員会日本代表代理の小松正之氏によれば、日本は、クジラの数量や年齢比から妊娠率のデータまで、大量の論文を世界の科学界に提出しており、国際司法裁判所ICJと森下氏の主張は双方とも正しく、ICJは査読付著名学術誌のことを言及しており、日本としてはIWCに提出した成果については査読など必要とせず、委員であれば誰でも閲覧可能となっているとしている、という。

 日本に何らの問題はなく、これらの論文は「クジラを殺した」というだけで著名学術誌から却下されたものであり、これこそが査読論文の少ない理由だ、という。

 両者の主張は、完全に平行線となっている。

【とにかくやめろ!、という世界の大勢】
 ハフィントン・ポスト(米国版)では、マーク・パーマー氏が寄稿して「クジラ、イルカの殺りくで、日本はみずからを傷つけている」とし、「米国政府はこれをやめさせよ!」と絶叫口調で主張する。この種の感情論ともいえる主張は他にもおびただしいが、実はこれが世界の大勢となっている。

※本文中「国際捕鯨委員会が今年3月に捕鯨中止を勧告した」は「国際司法裁判所が今年3月に捕鯨中止を勧告した」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。本文は訂正済みです。(10/1)

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Text by NewSphere 編集部