需要減、外国の反対…日本はなぜ捕鯨にこだわる? 政治的背景を英誌が示唆

 3月31日の国際司法裁判所(ICJ)での裁定を受け、日本政府は今年度の南極海での調査捕鯨を中止した。安倍首相は、「深く失望」と語ったが、裁定には従うとのコメントを発表。

 一方水産庁からは、将来の同地域での捕鯨再開に可能性を残すようなコメントが出されたこともあり、海外メディアからの批判の声はおさまる気配がない。

【科学を装う商業捕鯨】
 1986年、商業捕鯨モラトリアムが国際捕鯨委員会で採択されてから、商業捕鯨は禁止されてきた。

 しかし、科学的データ収集のための捕鯨は許可される、という「法のはざま」を利用し、日本が食用のための捕鯨を続けてきたとAFPは非難している。

 また、「日本は計画を手直しして、捕鯨再開をもくろんでいる」という専門家のコメントを紹介し、オーストラリア、ニュージーランドが引き続き外交的圧力をかけていくと思われると述べた。

【調査捕鯨は高くつく】
 エコノミスト誌は、「日本の捕鯨、もりを打ち込まれる」と題した記事を、鯨の血で染まった調査船甲板の写真とともに掲載。捕鯨は日本古来の伝統、という主張を維持することは、日本にとって「高くつく」と述べている。

 同誌は、産業としての捕鯨は、戦後の荒廃のなか、新鮮なたんぱく質が求められた1945年以降に日本で広がったと述べる。しかし今では、鯨肉を食べる人は少数派で、現在5000トン以上の鯨肉が消費されず冷凍庫で眠っている、と報じている。

 一方で、日本は商業捕鯨モラトリアム以後、捕鯨プログラムを国有化している。国際動物愛護基金によれば、1988年以来、約415億円の助成金が支払われたという。

 環境政策の専門家の石井敦氏も、原油価格の高騰、シー・シェパードなど過激団体の攻撃から船を守るための費用などで、南極海での捕鯨費用は膨らみ続けてきたと同誌に語る。

 2011年の復興資金の捕鯨への流用問題に見られるように、日本が費用のかさむ調査捕鯨を続けたがるのは、鯨肉需要や科学のためではなく、政治が絡む問題であることを同誌は示唆している。

【中国に範を示す】
 ニューヨーク・タイムズ紙は、今回のICJの裁定が出たあと、安倍首相が訴訟指揮にあたった鶴岡政府代表を激しく叱責し、失望の意を表したものの、裁定には従うと述べたことを報じている。

 アナリストたちは、日本は尖閣問題が過熱するなか、中国に対し国際的な法規範に従うよう求めているため、今回は自らが裁定に従い範を示す以外、選択はなかったとしている。

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Text by NewSphere 編集部