“農家より農協を守りたい” 日本の農業政策の矛盾を海外紙が指摘

 農林水産省の統計によると、日本酒の輸出が昨年10月までの10ヶ月間で85億円に達した。国内での米消費が減少するなか、酒米の需要が高まっている。崩壊寸前といわれる国内の稲作農家の再生のきっかけとなるのか。海外メディアはどう見ているか。

【食用米から酒米へ。昔からの品種の復活】
 日本酒の記録的な輸出増加に伴って酒米の需要が増え、稲作農家は昔からの品種を栽培し始めている。1970年代まで最も人気のあった日本晴、90年の歴史を持つ山田錦がその代表である。政府は、米、米菓、日本酒などの輸出額を、2020年までに600億円まで伸ばすという目標を掲げた。食の選択肢が増えて米の消費量が落ちている今、食用米からの転向の好機だと、ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌は論じている。

 日本酒の輸出額は増加傾向にある一方、2013年に生産された860万トンの米のうち、酒米は25万トンに留まっている。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・山下一仁氏は、同誌に対し、今後輸出農産物を増やすには、農業の効率化、生産費用の削減が焦点となる、と語っている。

【関税が守っているものは?】
 日本は、米は神聖な農作物であり、自由貿易の交渉には持ち出せないと主張し、数十年に渡って米の関税を守ってきた。ただしニューヨーク・タイムズ紙は、稲作農家の実状は、日本の主張に反するものだと論じている。同紙は、小規模農家は収入源を他に頼り、農業は片手間で作物の品質向上には関心がないとする。それでも、助成金などにより米は生産され続け、余剰米が発生するという。

 更に同紙は、現状では、農地拡大や持続可能な農業などの改革も困難だと指摘する。例外として、数少ない新興企業のひとつ、越後ファームが紹介されている。同社は有機米の販売に成功し、現在では市場価格の10倍、1キロあたり5,500円にもなる。立ち上げ当初は、官僚の土地貸し渋り、地元農家の反対など困難を極めたという。「稲作農業が崩壊しかけているのは、自由貿易のせいではない」と、社長の近正氏は話す。

【国内稲作農家の今後に希望はあるのか】
 愛知岡本農園の岡本氏は、関税が守っているのは農家ではなく、農家から搾取し改革の意欲を削いでいる農業協同組合だと言う。

 農業予算のほとんどが、米の生産管理、販売、流通を担うJAを始めとする農業組合に渡る。小規模農家が経済利益を上げることができなくても、何ら影響はない。農協は収穫の委託料を受け取り、農耕機械、肥料、殺虫剤の販売を行うとともに、預金、ローン、保険なども取り扱う、国内最大規模の金融機関となっている。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、アメリカやEU同様に直接収入を助成金とすれば、関税なしでも国際競争から農家を守ることができる一方、農協は委託料と政治的影響力を失うだろう、と論じる。

 岡本氏は、「日本の農業政策は、農家を強くするどころか崩壊寸前にまで追い込んだ」と話す。中でも稲作は深刻で、品質に関係なく収穫量を買い取るため、品質は落ちる一方だ。規制が厳しいため若者の新規参入も難しく、4分の3が60歳以上というのが現状だ。安倍首相の経済特区案、2018年までに米の生産管理を廃止する案は希望ではあるものの、生産管理が継続されてきた現政権下での劇的な改革は疑わしいと専門家は分析する。

 農家と官僚組織の利害が反する現状で、農家主体の体制が出来上がる日が果たしてくるのだろうか。いまだ道筋は見えてこない。

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Text by NewSphere 編集部