海外が報じた日本 3つの主要ニュース(12月15日~12月21日)

1.サマリー
 12月3週目、日本の政治・経済についての主な記事は約25記事だった。16日の衆院選で自民党が勝利したことを受け、安倍総裁の経済政策、日銀の動き、日中/日韓関係を中心とした外交姿勢が注目されている。日本の新聞各紙と異なる点は、外交への注目が比較的大きい点、閣僚人事の“内定”が報じられない点などがあげられる。
 また選挙後の論説では、日本社会・経済の課題として、少子高齢化への対応や女性の社会進出が不十分な点を指摘するものもあった。

2.衆院選結果
 16日、日本の衆議院選挙で、自民党が480議席中の294議席を獲得し、圧勝した。しかし投票率は59%と、記録的な低さになっている。
 この結果を受け、各紙は、問題山積の国家運営の中、安定多数があるからと言って自民党が不人気な政策を採れば、再度簡単に逆方向への地滑りが起きるだろうと警告している。実際ニューヨーク・タイムズ紙は、日本の有権者にとって、他にこれといった選択肢たる党がなかったことが自民党圧勝の理由と説明している。また、安倍氏が首相を1年で投げ出した前歴を持ち、その後の首相も1年足らずで辞任していることから、政策内容以上に政権が長続きすることがまず重要と論じている。

【外交への影響】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、54議席を得た日本維新の会が、第三極を形成する他小党に比較すると明確な勝利を飾ったと伝えた。ただし同紙は、国政に復帰することになった石原前東京都知事が、さらに国家主義的な政策に邁進するとも懸念している。中国との領土問題についても、日本維新の会が自民党に対して、その公約である対中国強硬路線を守るよう圧力を強めていく、とする意見を掲載。また、石原氏が日本人全体を代表しているわけではないにもかかわらず、韓国・中国からそのように解釈される危険性があるとしている。
 一方、グローバル・タイムズ紙(中国)は、安倍氏の外交について比較的楽観的な見方のようだ。同紙は、安倍氏をタカ派と位置づけてはいるものの、実利主義の同氏は、低迷する経済を考慮に入れ、中国との冷えきった関係を改善する公算が強いという見方を紹介している。

3.安倍氏のデフレ対策
 安倍総裁は18日、白川総裁と党本部で会談。日銀へ、現在の2倍となる2%のインフレ目標を求める発言をしたという。実際、この発言を受け、19日の金融政策決定会合で、1月からインフレ目標を導入する方針が決まった。こうした手法を、「ショー」的スタイルとして批判的に報じる新聞や、独立性の観点から批判する新聞もあるが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、日本における中央銀行の独立保証は、海外先進国からは異端視されていることを指摘した。
 ブルームバーグ・ビジネスウィークは、2006年、景気が上向き始めたと見た日銀が5年にわたる緩和政策を終わらせたため、その後の安倍首相時代に再度の経済縮小を招き、安倍氏の人気が低迷、辞任に繋がったと報じた。選挙中の先月27日には、安倍氏は当時の日銀の政策は間違いだったと断じており、同紙は「安倍の逆襲」が始まると表現した。

 またウォール・ストリート・ジャーナル紙は、安倍氏が経済財政諮問会議を復活させる意向であることに注目した。同会議は、小泉内閣時代に郵政民営化などを実現した原動力でもあり、安倍氏は、「当会議こそマクロ経済政策の司令塔と思います」と発言していると報じた。同会議には日銀総裁も出席するため、その席上で日銀への圧力が加えられ、日銀総裁はこれに抵抗できないであろうと示唆している。安倍氏は、日銀の独立性を保証した法律を見直すことも、4月の白川総裁の任期満了後に、もっと協力的な総裁を据えることもできるという背景がある。

4.日本経済の行方を占う
【賛否両論な「安倍相場」】
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、外国人投資家からは安倍政権の大規模な景気対策や大胆な金融緩和によるデフレ脱却と円安の実現に期待が高まっていると報じている。実際、19日には日経平均株価が8ヶ月半ぶりに1万円を超えた。
一方で、日本国債の投資家は財政規律の緩みを懸念しており、長期国債相場が圧迫されるのでは、と指摘している。また、長期国債の需要のカギとなっている保険会社は日本国債よりも利回りの高い米国、ドイツ、フランスなどの国債を購入する傾向が強いのが現状であるという。アナリストは、日本の金利が上昇しても投資家の買い入れが入るため上げ幅は限られるだろうと予測している。

【景気回復への課題】
 フィナンシャル・タイムズ紙は中国との領土問題が景気低迷の要因になっているとして対中輸出の減少を取り上げている。11月貿易統計速報によると、貿易収支は9534億円の赤字で、5ヶ月連続の赤字となった。対中輸出は10月の12%減に続き、14.5%減となり二桁での減少が続いている。特に、建設用・鉱山用機械(75%減)や自動車(69%減)の減少が顕著となっている。安倍氏の影響によって円安が進んでいることに対して、アナリストは、「輸入価格を押し上げる可能性があるため、日本の貿易収支は赤字から脱却しがたい環境にある」と消極的な分析をしているという。今後は世界的な需要回復が期待されるが、日本の景気回復には十分でないとされている。
 
 一方ニューヨーク・タイムズ紙は、一般消費者や小売業者の実態に焦点を当て、長年のデフレによってすでに習慣的に消費者の財布の紐は堅くなっており、金融緩和を約束したとしても、政権がこれを緩めさせるのは容易でないと評価した。給与増加が見込めない消費者は(たとえ見込めるとしても)、常に少しでも安い店を探し続けていると指摘。それに応じて店側も、吉野家などの牛丼戦争に代表されるように、ライバル店に先駆けた「消耗戦的」値下げ合戦を常態化させているという。同紙は、大半の消費者が20年近くにわたり家計消費を切り詰めようと考え続けているとのデータや、購買力が物価より速く落ちているとのデータを示し、日本には古典経済学の常識が通用しないと警告した。

Text by NewSphere 編集部