海外が報じた日本 4つの主要ニュース(11月17日~11月23日)

1.サマリー
 11月3週目、日本の政治・経済についての主な記事は約30記事。今週はイスラエル・ハマスのガザ紛争、東アジアサミット、EU予算をめぐる各国の攻防など重要ニュースが目白押しであり、相対的に日本は小さな扱いとなった形だ。
 その中では、自民党の政策、安倍総裁の発言が注目された。特に安倍氏の日銀に対しての強硬な発言の影響は大きい。またビジネスに関するニュースでは、任天堂の新商品「Wii U」のアメリカ販売開始が取り上げられ、スマートフォンの普及などで苦しい状況の中、新しいハードウェア戦略の行方が注目されている。

2.日本の政治
【衆院解散】
 自民党と民主党の対立、第三極の動向について詳しく報じられた。海外各紙は民主党の敗北と自民党の勝利自体はほぼ確実と見ているようで、安倍総裁の発言が重点的に報じられている。第三極として急進する「日本維新の会」については、石原・橋下両氏が「ナショナリスト的」だという文脈から取り上げられている。(詳しくはコチラ

【自民党の政策】
 海外各紙は、自民党の政策kのうち、特に経済政策と外交方針に焦点を当てた。
 フィナンシャル・タイムズ紙とインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は、安倍総裁が日銀に対し、より積極的な金融緩和を求め、インフレ目標を2%にすることを要求、さらに日銀法改正にも言及し、政府・日銀の連携強化をうたっていると報じた。各紙はこの方針に対する懸念の声を取り上げている。フィナンシャル・タイムズ紙は、デフレ解消をねらった過激な緩和政策がハイパーインフレを引き起こす可能性を懸念する、エコノミストの指摘を取り上げた。一方で、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙が取り上げたように、安倍総裁の発言をうけ、日経平均株価の上昇、円安の傾向もみられる。同紙は、実際の経済政策よりも、経済が活発になるという期待そのものが景気回復には重要なのではないかと分析した。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、自民党の安倍総裁が軍事力拡大・軍事費の増加を強く主張していると報じた。安倍総裁は、民主党への政権交代後、中国・ロシア・北朝鮮などから挑発を受けることが多くなったことを指摘。情勢の変化に対応するべきとして、政権獲得後は、尖閣諸島の実効支配を強化する方針だという。また安倍総裁は、いわゆる“従軍慰安婦”問題についても、調査を進め誤解を解く方針であると報じられている。イデオロギーを反映したこれらの政策から、アメリカや中国の専門家の中には安倍氏の国家主義的な姿勢を懸念している向きもある、と同紙は報じた。
 フィナンシャル・タイムズ紙は、日本ではこの5年間で6人もの総理大臣が交代を繰り返したと指摘し、経済の活性化に関しても、日銀と政治界に強力なリーダーが必要だと論じた。

3.日本の外交
【日中韓、FTA交渉開始宣言】
 日本、中国、韓国は20日、東アジアサミットにおいて、3国間の自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉の開始を宣言した。
 3ヶ国の関係修復を期待する観点から、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は各国関係者のコメントを紹介した。経産省の河本交渉官は、「3ヶ国は既に経済面で依存し合っているので、FTA締結で3ヶ国の経済を活性化させ、良好な外交関係に戻れるだろう」と発言。韓国の崔・交渉代表も、「FTA締結で3ヶ国にとって有意義な市場が作られ、経済的、政治的な協力関係の強化にもつなげられたら」と述べている。一方、日中関係の膠着状態も依然懸念され、温家宝首相が野田首相との会談を避けたことも報じた。
 FTAの締結で韓国の経済力が高まると予想するワシントン・ポスト紙は、韓国のGDPが1.45%成長すると報じた。韓国の朴・通商交渉本部長(閣僚級)は、数値に関して「控えめな予想」と発言、今後の韓国の活躍次第でさらなる成長が期待できると示唆している。同紙は世界第2位、3位のGDPである中国、日本に対し、15位にとどまる韓国の今後の成長に注目している姿勢だ。
 なお、ロイター通信社は今後の中国・韓国の関係強化に着目。中国・韓国が早期にFTAの締結に関し合意できれば、目標である「2015年までに3000億ドルの貿易額」に達することができると報じた。

4.日本の経済
【問われる日銀の役割】
 12月の衆院選に向けて各党の発言がヒートアップする中、自民党が脱デフレ・円高を目指し、安倍総裁が“日本銀行に大胆な金融緩和を求める”と主張していることから、日銀の動きに注目が集まっている。白川方明総裁は、こうした主張に強く反発し、中央銀行としての独立性の重要性を訴えながら、デフレ脱却に向けての政策対応を政府にも求めている。
 海外各紙は一連の流れを追いながらも、変化を嫌い既得権益を守ろうとする日銀の体質を分析している。
 日銀は、バブル崩壊からこれまで実質的な“ゼロ金利”政策などの金融政策を行ってきたものの、日本経済は一向に回復を果たせないままでいると指摘される。ニューヨーク・タイムズ紙は、日銀がバブルの再来を恐れるあまり、大胆な金融政策をできずにいるためだと分析している。また、政府の財政政策のツケを日銀が払うことで双方が市場の信認を失い、国債や通貨の下落という副作用が起こることを恐れているようだとも指摘した。一方で、フィナンシャル・タイムズ紙が日銀の経済・インフレ予測は民間の予測よりも強気で、常に下方修正を繰り返していると指摘しているように、見通しの甘さも伺える。なお安倍氏の発言に対しては、金融を知らなすぎるとの批判があり、実現できなかった際のダメージが大きいとも言われている。
 一方、デフレ脱却を目指した政治主導の劇的な変化を歓迎するムードもある、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は報道している。先日、政府と日銀が発表した共同文書にもあるように、デフレの克服と円高の是正には、日銀が金融緩和で景気を支え、政府が国の成長力を強化する政策を行うなど、双方の適切な協調が必要とされている。

Text by NewSphere 編集部