映画『ラビング』 禁じられた異人種間の結婚…変えた2人の愛と日常

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映画『ラビング』 禁じられた異人種間の結婚…変えた2人の愛と日常

 2月26日にアカデミー賞授賞式が行われた。大いに期待されていた『ラ・ラ・ランド』は作品賞を逃したものの予想通り多くの賞を受賞した。一方、日本ではまだ話題になっていなかった『ムーンライト』や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が重要な賞を獲得して注目を浴びている。

 その他にもアカデミー賞では受賞しなかったものの高く評価されている映画はたくさんある。その一つは3月3日に日本で公開される『ラビング 愛という名前のふたり(原題:Loving)』である。異人種間の結婚が禁じられていた50年代のアメリカで実際に起こったラビング夫妻の闘いを描く同作は、カンヌ映画祭をはじめ様々な映画祭で注目を集め、各紙のレビューで好評を得ている。

◆「普通」の人生を求めるラビング夫妻の物語
 舞台は、50年代の終わりから60年代後半にかけてのアメリカ。子供の頃から親友であった職人のリチャード・ラビングとミルドレッドは、恋人同士となり深い関係を結ぶ。リチャードが妊娠したミルドレッドにプロポーズし、二人は結婚することを決心する。

 ここまで二人の物語はありふれたラブストーリーのように見えるが、結婚をきっかけにリチャードとミルドレッドの長きにわたる闘いが始まるのである。というのは、当時二人が住んでいたバージニア州では異人種間の結婚が法律で禁止されていたからである。リチャードとミルドレッドは法律で許されるワシントンD.C.で結婚し、地元の新居で暮らし始めるが、ある夜突然現れた保安官に逮捕されてしまう。

 離婚するか故郷を捨てるか、極端な選択を迫られる二人は、「普通に」家族を作る夢を見ながら10年間闘い続け、ミルドレッドがケネディ大統領の弟であるロバート・ケネディ司法長官に手紙を送り……。

◆小文字の歴史におけるラビング夫妻の日常と闘い
 1924年にバージニア州では「人種統合法(Racial Integrity Act)」が成立した。「ワン・ドロップ・ルール」に基づくこの法律によってすべての人は「白人」か「黒人」のいずれかに分類されなければならないことになっており、異人種間結婚が禁止されていた。この法律が1967年に撤廃されたのはまさにラビング夫妻の闘いのおかげなのである。

 リチャードとミルドレッドの物語が映画化されたのは今回が初めてではない。2011年に『The Loving Story』というドキュメンタリー映画でナンシー・バースキー監督がラビング夫妻と弁護士との対話の映像を通じて二人の闘いを描いている。一方、『ラビング』ではジェッフ・ニコルズ監督がリチャードとミルドレッドの日常における愛情を丁寧に描き、大文字の歴史の背景のなかにある二人の小文字の歴史を語っている。その小文字の歴史にこそ感銘を受けた名優コリン・ファースがプロデューサーを名乗り出て、ラビング夫妻の物語が映画化されたのだ。

 ローリング・ストーンズ誌で映画批評家のピーター・トラヴァース氏が指摘しているように、ニコルズ監督の関心は新聞に大きく取り上げられたラビング夫妻の裁判ではなく、むしろ人種差別が常識だと思うほど深くとらわれた二人の物語のほうにある。涙を誘うような凄まじいスピーチではなく、家族や友達がいる故郷から離れワシントンD.C.に住んでいるリチャードとミルドレッドの日常がその苦痛を語っているのである。

 また、ニューヨーク・タイムズ紙のマノーラ・ダーギス氏も映画におけるラビング夫妻の日常の表象に注目しながら、ニコルズ監督はリチャードとミルドレッドが送っている静かな日々を描くことによって、二人をアメリカ例外主義の枠組みから取り出し、「普通に」愛情で結ばれ、その愛のために闘っていた平凡な人という本来の位置に戻したと評価している。

◆アカデミー主演女優賞はルース・ネッガに与えるべきだった?
『ラビング』の重要な見所としてはミルドレッド役を演じるルース・ネッガの演技がその一つとしてあげられる。アフリカン・アメリカン映画批評家協会賞、女性映画ジャーナリスト同盟映画賞、ブラック映画批評家協会賞、パームスプリングス国際映画祭、サンタバーバラ国際映画祭など、『ラビング』でルース・ネッガは約10個もの主演女優賞を獲得した。その上、アカデミー賞にもノミネートされ、ローリング・ストーンズ誌とガーディアン紙の批評家は、アカデミー賞主演女優賞を彼女に与えるべきだと主張したほどルース・ネッガの演技を絶賛している。

 周知のように主演女優賞が『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンに与えられたが、ガーディアン紙のピーター・ブラッドショー氏が書いているようにルース・ネッガが優しく、しかし同時にパワフルな演技を見せ、彼女こそが本作品の中心にあるのである。

◆今にも通じる普遍性
『ラビング』の舞台は1958年から1967年までのアメリカであるが、60年前の過去を非常に近くに感じさせる力を持っている作品だ。イスラム教7ヶ国の入国を禁ずるトランプ大統領の大統領令や依然として続いている警官による黒人への暴力は、アメリカにおいて人種差別がいかに根強い問題であるかを如実に物語っている。『ラビング』は、アメリカの過去と現在について考えさせつつ、ラビング夫妻のようにより平等な社会を目指す「平凡」な人に希望を与える傑作映画として今後も注目を浴び続けるであろう。

(グアリーニ・レティツィア)南イタリア出身で、2011年から日本に滞在。ナポリ東洋大学院で日本文化を勉強してから日本の大学院に入学。現在、博士後期課程で日本現代文学とジェンダーを研究しながら、Webライターとして海外旅行、異文化、難民などについて執筆。

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