酒造り通じて見える日本人の型 日系米監督のドキュメンタリー、映画祭出品

 ニューヨークのトライベッカ映画祭に、日本の酒造りを描いたドキュメンタリー『The Birth of Sake (酒の誕生)』が出品され、関心を呼んでいる。国内では年々消費が減る日本酒だが、海外では人気上昇中。職人の技が支える伝統の味が、海を越えて受け入れられつつある。

◆厳しい酒造りの現場を映像に
 トライベッカ映画祭は、アメリカの同時多発テロ事件後、ニューヨークの復興を目的とし、俳優のロバート・デ・ニーロらが中心となって2002年に始まったイベントだ。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、今年は上映の半分近くがドキュメンタリー作品で、『The Birth of Sake』 はその主題とスタイルで他と一線を画す作品と評している。

 監督のエリック・シライ氏は、清酒「手取川」を作る蔵元「吉田酒造店」の6か月間に渡る酒造りに密着。職人が自らの仕事に表す敬意、過酷な作業、仲間と共に生活し、働くことで生まれる連帯感などを、映像で表現している。「これが日本人で、これが自分のルーツだということをいつも示したかった」と言う日系人のシライ監督は、この映画を外国人だけでなく、日本人にも見てもらい、酒造りの文化を誇りに思ってもらいたいと話した(Daily Beast)。

◆高齢化と嗜好の変化が障害に
 『The Birth of Sake』は、「手取川」の職人やスタッフの情熱、匠の技、忍耐力を描いた作品だが、ある意味では、変化にもまれ、生き残りに必死な産業の悲惨さを描くものだと、『Daily Beast』 は指摘する。小さな蔵元での酒造りは、職人の高齢化でシルバー化する産業だ。都会で稼げる仕事があるのに、年に半年しかできない骨の折れる手作業の酒造りに、関心を寄せる若者は少ない(Daily Beast)。

 伝統の酒造りが守られたとしても、「実際に飲んでもらう」ことは難しい。昭和45年に153万リットルだった清酒の消費量は、平成24年には59万リットルと減少を続け(国税庁酒のしおり)、日本酒は祖父母世代の好むものとして見られ、ワインやウィスキーほどおしゃれではないと『Daily Beast』は指摘する。

◆突破口は海外に
 一方、日本酒は海外では人気上昇中だ。アメリカでは、手作りで大量生産できないクラフトと呼ばれる酒類が人気で、多くの小規模醸造所が誕生しており、このブームに乗れば、小さな蔵元の日本酒にも販路拡大のチャンスはある、とアメリカで日本酒専門店を営むボー・ティムケン氏は指摘する(Daily Beast)。

 日本流にとらわれない酒の楽しみ方も、海外でのハードルを下げているようだ。ロンドンの『Evening Standard』 紙は、ビギナーのため、プロの酒ソムリエのアドバイスを掲載。日本酒は冷やして白ワイングラスに注ぎ、肉やチーズに合わせることを奨める。また、全くの初心者は、軽くてフルーティなスパークリング酒から入ることも勧めている。

 ロンドンのビジネス紙『City A.M.』 によれば、ワインと同様に日本酒の飲み比べも人気だ。ロンドンのホテル「パーク・レーン」のレストランとバーには、なぜか「Shini-Tai(死に体:相撲用語で自力回復できないほど体が崩れた状態)」と名付けられた日本酒3種の飲み比べセットが登場。35ポンド(約6300円)で楽しめるが、回復できないほどの量ではないようだ。

 日本酒の未来について、シライ監督は、伝統的製法は守りつつも「そのマーケティングは変えていかねばならない」と指摘する(Daily Beast)。海外でどのように日本酒が受け入れられていくのか。今後も注目していきたい。

Text by NewSphere 編集部