米国では有名な、亡き日本人女性の都市伝説 菊地凛子主演の映画化で好評価 その内容とは?

 毎年アメリカユタ州で開催されるインディペンデント映画の祭典「サンダンス映画祭」にて、日本人映画女優、菊池凜子が主演した『クミコ、ザ・トレジャーハンター』が初めて公開された。同映画は、美しい映像構成や、菊池の卓越した演技で、各種レビューで高く評価されている。

 その内容は、日本での生活に鬱屈としていた日本人女性が、ふとしたきっかけで、映画『ファーゴ』(コーエン兄弟監督)の一場面を現実に起きたことと信じ込んでしまい、米国ノース・ダコタ州をさまよった挙句に死んでしまう、というもの。

 現実離れしている感もあるあらすじだが、実は、この物語は実際に起こった話、そしてそこから海外で独り歩きした都市伝説を基にしたものである。

【英語圏を中心に広まった、ある日本人女性にまつわる都市伝説】
 2001年、コニシタカコさんという東京在住の女性が、前述の映画の舞台の街、ノース・ダコタ州ファーゴから60キロ東に位置する地点で凍死しているのが発見された。この事件が都市伝説と化したきっかけは、事件関係者による証言。タカコさんの遺体が発見される6日前にタカコさんを保護したという地元警官が、タカコさんは映画『ファーゴ』の一場面にて同映画の主役が地面に埋めた、ブリーフケースいっぱいのお金を探していた、と証言したことから、このニュースは爆発的に広まった。

 このブリーフケースは劇中で地中に埋められたものなので、もちろん現実には存在するはずもない。それをタカコさんに何時間もかけて説明したが、言葉の壁により、話の趣旨がタカコさんにうまく伝わらなかったようだ、と警官は話した。

 前述の映画『ファーゴ』は、虚構と現実が入り混じる様をテーマにした映画である。同映画開始時に流れる「これは実話である」というテロップは、映画のフィクション性を皮肉ったものとして有名。また、同映画は主人公が起こした狂言誘拐を追うあらすじとなっており、主人公を追う女性警官が事件を取り巻く「嘘」と「真実」を見分けていく内容だ。

 映画『ファーゴ』を貫く「虚構か現実か?」という問いと、その映画を観て、劇中の宝を現実のものと錯覚してしまった日本人女性。このあまりにも出来すぎた一致は多くの人の興味を刺激し、アメリカの小さな目立たぬ町で起こった事故にもかかわらず、様々な英字メディアに取り上げられた。

【都市伝説を生み出したのは言葉の壁による行き違い】
 タカコさんの宝探しの物語は、のちに米国人ジャーナリストのポール・バークゼラー氏の調査によって真実でないことが明らかになった。

 事件の真相は、仕事や、アメリカ人の既婚男性である恋人との破局に悩んだ末の自殺だったことが判明。タカコさんは、元恋人との思い出の場所であるミネソタ州を訪ねたのち、好きな映画だった『ファーゴ』の舞台であるノース・ダコタ州を訪れたのだという。タカコさんが自死の前日に元恋人にかけた40分の電話と、家族に送った遺書から明らかになった。

 この痛ましい事件が都市伝説として広まってしまった理由は、前述の警官とタカコさんのやり取りの最中に起こった行き違いだ。英語が不得意だったタカコさんが、手書きの地図を見せ、「ファーゴ」という地名を何度も繰り返し言ったことから、居合わせていた警官らはタカコさんが劇中のブリーフケースを探していると勘違いしてしまったのだった。

【ゼレナー兄弟を魅了した都市伝説の要素とは】
 上述のバークゼラー氏による調査は、ドキュメンタリー映画『ディス・イズ・ア・トゥルー・ストーリー』としてまとめられ、2003年に公開された。

 真相が報道された今、タカコさんの死を興味本位で扱った、事件直後の報道を批判する声も聞かれる。しかし、前述の『クミコ、ザ・トレジャーハンター』を制作したゼレナー兄弟は、真実を知ったあとも、寓話的な趣のある都市伝説のほうを映画化したいと願ったのだそう。当初の都市伝説に、大航海時代とともに途絶えてしまった慣習であるはずの「宝探し」の要素が盛り込まれている点や、現代の“伝承”ともいえる「映画」がその「宝探し」を触発する等のコンセプトに惹かれたのそうだ。

菊地凛子×篠山紀信『RINKO』

Text by NewSphere 編集部