お金があなたを幸せにするなら、債務はあなたを不幸にする?

Iakov Filimonov / Shutterstock.com

著:Cassondra Batz(パデュー大学 Industrial-organisational Psychology Doctoral Student)

 「お金で幸せは買えない」。この格言の真偽について、人々は長らく議論をしてきた。確かに、お金で幸せは買えないというのが一般的な見方だが、最近、研究者たちはこの考え方に挑戦してきた。広範囲にわたる研究の結果、お金、もしくは所得によって幸福が得られることが明らかとなった。資本主義社会において、幸福をもたらすモノを手に入れるのにお金が必要という限りにおいて、所得があれば幸せになれる。食住のニーズの充足、住宅や食品の購入のほか、冒険や旅行といった経験の窓を開くことで、お金は、人生の満足感を私たちに与えてくれる。

 では、債務と幸福の関係はどうだろうか?借金をしてお金が手に入れば私たちを幸せにしてくれるだろうか?それとも、返済しなくてはいけないという考えが不満やストレスにつながるだろうか?借用証書は、卒業証書、住宅、ガレージにあるピカピカの車を手に入れる余裕を与えてくれる、つねに存在する悪、時には必要悪だ。しかし、これらのためにどんな犠牲を払うことになるのだろう?

 米国の世帯の80%、大学生の70%が債務を抱えている現状からすると、私たちにとって、借金がもたらす感情面への影響を研究する価値があるのは確かだ。既存研究をレビューしたところ、債務によるストレスは2種類の影響を及ぼしている。借金によりストレスが溢れ出て、生活する中での心理的な負担となっていたようだが、同時に、債務返済に必要な実際のリソースが減少する真の要因でもあった。

 詳細な研究を行うために、私たちは多くの大学生を対象に、学生ローンが主観的な幸福感に与える影響を分析した。得られた知見の多くは自明の理であった。管理できる範囲内で借金をするときは、巨額の債務を抱えているときと比較して、個人の幸福感に与える影響は少ない。個人の幸福感は、借り入れ先によっても違いが出た。例えば学生ローンの補充で、利率が低いか返済に柔軟性を容認する個人や組織から借金した場合は、法外な金利を要求し、容赦のない返済を求める金融機関から借りた場合と比べてストレスが少ない。債務が引き起こす感情面での負担は、その個人に他の金融資産があるかどうかによっても変化した。投資や保有物件に見合った債務を負っている人は、安心して生活できる手段を有していた。特に重要なのは、借金のレゾンデートル(存在理由)だ。生活用住宅など、必要なもののために行う借金は、個人の幸福感に与える影響はそれほど大きくない。他方、特段必要のないリフォームに節操のない贅沢をするための借金の場合は、ストレスが大きかった。

 では、教育ローンを受けることで多くのキャリアに必要な学習レベルに到達できるのだが、それにより結果は変わるだろうか?ある程度はそうだろう。驚くまでもなく、私たちの分析では、学生ローンが金銭的な不安を増幅することが示されており、これは人生の満足度に決定的な影響を持つ。しかし教育を受けることで実質所得が増えれば増えるほど、借り手の不安はより軽減される。学生は最長8年にわたって債務を返済し続けるが、所得の増加によって幸福感が確実に高まる一方で債務によって幸福感が少なくなり、最終的に両者の帳尻が合うようになったことが明らかになった。

 自明なことの証明のように思えるこうした研究に利点はあるだろうか?私たちはあると考える。

 債務と所得のどちらが個人の幸福感に強い影響を与えるかという問題を考えるとき、所得は債務の単なる裏返しであるかどうかを理解すると役に立つ。結局、もし債務と所得が表面的な連続体の両端であるなら、それぞれの相対的な強みを比較するのは実質的に無意味だろう。しかし私たちは、債務と所得の間にある興味深い並列関係、かなり微妙な意味合いを含む関係を見出した。つまり、債務水準は、所得水準に関わらず発生し得るのだ。実際、高所得の人たちは、高い信用が供与されるために高額の借金をすることができる。他方、金銭能力の高い人は所得が多く、債務が少ない傾向がある。このとき、債務と所得、およびそれらがもたらす幸福感は逆相関になっているのだ。

 つまり、単純に思えたことが実はいくぶん複雑なのである。私たちの研究で強調したいのは、多額の借金をするとき、学生はクレジットスコアのみを憂慮すべきではないこと。幸福感と内的な生活感情が低下することも等しく考慮しなくてはいけない。さらに学生は、債務が与える影響は必ずしも全て同一ではないことも理解する必要がある。借金という選択をする場合は、次の点を検討するのが肝要だ。管理できる範囲内の金額を借りること。借金する理由、お金の出所を真剣に考えること。所得もしくは他の資産で担保できる場合に限り借金すること。以上の要素を考慮すれば、借金しても顔から笑みが消えることにはならないだろう。

This article was originally published on AEON. Read the original article.
Translated by Conyac

Aeon counter – do not remove

Text by The Conversation