2026年に12兆円、急成長する世界の動画配信市場 アニメがけん引か 日本の現状は?

 ビデオオンデマンド(VOD)は、日本では期待されながらも市場が思うように拡大してこなかった経緯がある。NTTドコモが運営するdTV、日本テレビ系列のHulu、そして2015年からNetflixが加わった。さらにAmazonが会員向けにプライム・ビデオのサービスを日本国内でも開始した。VODは、いよいよ活況を呈する動きとなってきたのか。

◆日本のVOD市場の推移
 一般社団法人日本映像ソフト協会が毎年実施している「映像ソフト市場規模及びユーザー動向調査2015(2016年4月公表)」によると、2015年のVODなど有料動画配信市場は961億円で、前年の1.5倍(50%増)。2014年は614億円で前年の2.5%増にすぎないので、Netflixが2015年に参入したことがやはり大きそうだ。2016年以降もどの程度の伸び率で市場が推移するのかが注目されるところだ。

 日本では2015年のセルソフト(映像DVDの販売等)の市場が2,234億円、映像ソフトのレンタル市場が1,941億円とそれぞれ規模は減少しつつも、有料動画配信市場に比べればかなり大きい。これらを合算した市場全体に占める「有料動画配信市場」は2割にも満たない。この2つの古いタイプのサービス市場が置き換わるとすると、VOD市場の伸びしろはまだまだあるわけだが、それだけ成長が遅いともとれる。

◆2017年の米国市場展望
 一方、VODが生まれた米国ではこれまでも市場規模は拡大してきたが、スマートフォンの視聴者が増えることで、もう一段の成長が見込めそうだ。コンサルティングファームのデロイトによると、視聴者の20%以上がモバイル機器を使い、ストリーミングサービスは全消費者の6割が利用している。VODの視聴者は2015年の1億8,100万人から2021年には2億900万人にまで増えると予想されている。NetflixやAmazonなど大手の他、ケーブルや衛星テレビ局も安い価格でサービスを提供していることや、各チャネル独自の広告やコンテンツの発展なども下支えしているとする。スポンサーと協力してオリジナル番組を製作することなどが該当するだろう。NetflixやAmazonは米国でのオリジナル番組制作の経験を活かし、日本でも力を入れている。又吉直樹氏の芥川賞受賞作『火花』を、Netflixでドラマ化したことでも話題になった。

◆アジアの成長が著しい
 調査会社Future Market Insightsのレポートによると、全世界のVOD市場は2026年までに年平均8.3%成長し、1,086億ドル(約12.5兆円)に達するとしている。高速ブロードバンドの普及とプレミアムコンテンツがその背景にある。そしてアニメーションを好む若年層の視聴者の増加も大きく、2014年には73億8千万ドル(約8,470億円)の規模があり、今後も年平均で9%以上の成長が見込めるとしている。『Harry the Bunny』『Numbers around the Globe』『Rainbow Horse』『Blue’s Room』や『おさるのジョージ(Curious George)』など幼児向けのアニメーションの貢献が大きいようだ。また地域別の成長率ではアジア太平洋地域(日本を除く)が高く、VODビジネスやインフラへの投資が活発なことも要因として挙げられている。

◆日本のアニメ市場の動向
 アニメーションというと、海外でビジネスを拡大させているVODの流れに日本のアニメ界が乗ることができているのかが気になるところ。一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2016」によると、アニメコンテンツの海外への販売は2005年の5,215億円以降、2012年まで減少と低迷を続けてきた。2000年代前半の「ポケットモンスター」以降、日本のアニメ界は人気に安住し、海外マーケットへの働きかけなどの努力が不足していたという指摘もある(NHKクローズアップ現代)。2013年から海外販売額は再び上昇に転じ、同年の2,823億円が2015年には5,833億円にまで拡大し、かつてのピークを超える勢いとなっている。同協会の見方では中国需要が大きいとしており、VOD市場との関連性は述べられていない。

 映画『君の名は。』がアジアで大いに人気を博し、米国への進出も果たした。再び日本アニメが盛り返している証かもしれない。アニメ市場は日本の経済にとってもインバウンド需要と同様、期待値は大きい。そしてアニメなどのコンテンツが海外に進出することで、日本への旅行客が増えたり、日本製品が海外で売れたりするなど相乗効果が期待できる。

 コンテンツの成功で重要なことはメディアの変化を的確に捉えること。その点ではVODの普及が日本で後れ気味なのは、コンテンツ産業がそういう新しい波にうまく乗れていないのか、みずから乗ろうとしていないのか。コンテンツの海外進出の妨げにならなければいいがと心配するのは考えすぎだろうか。

Text by 沢葦夫