“日銀の緩和策は限界” 海外識者、安倍首相に規制改革推進を求める

 日銀は25日、追加金融緩和の決定に至った10月31日の金融政策決定会合の議事録を公表した。一部の委員の強い反対意見も記録されており、黒田日銀の決定が一種の賭けに近いものだったことが浮き彫りになった。世界を驚かせた発表から約1ヶ月が過ぎ、海外メディアもこの議事録などを元に、改めて黒田日銀の政策を評価している。

 追加緩和決定当初、特に欧米メディアの間では内容を高く評価する報道が目立った。しかし、これまでのアベノミクスの成果を問う解散総選挙の実施が決まった今、「日本の選択肢はなくなりつつある」(ブルームバーグ)など、厳しい論評も多くなってきているようだ。

◆追加緩和は現在の景況への「先制攻撃」
 日銀は先月31日の金融政策決定会合で、長期国債などの買い入れを増やし、1年間に市場に投入する資金量を50兆円から80兆円に拡大するなどとする追加金融緩和策を決定した。黒田総裁は、日本がデフレマインドから脱却し、日銀が目標に掲げるインフレ率2%を実現するために不可欠な政策だと述べている。

 また、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、これにより、日銀が円安をさらに進める「通貨戦争」を始めたとするエコノミストの意見を紹介している。

 議事録によれば、賛成派の委員からは、「ここで政策対応を行わなければ、コミットメントを反故にすると理解され、日銀に対する信認が大きく損なわれる可能性もある」などの意見が出たという。賛成票を投じた一人、白井さゆり委員(慶応大学教授)は、26日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)の記事でも同様の見解を述べている。また、当時から予想されていた現在の下向きの景況予測に対する「先制攻撃」だったと、追加緩和を擁護している。

◆議事録では強い反対意見も
 しかし、WSJによれば、白井委員も「さらなる追加策には熱心ではない委員の一人」で、2%のインフレ率目標を達成するにはもっと時間が必要だと主張している。また、同委員は、原油価格の下落や国内需要の低迷により、消費者物価指数(CPI)の上昇ペースも失速傾向にあり、「我々の期待を下回っている」と分析し、懸念を示している。

 FTによれば、反対票を投じた「4人の反逆者」のうち、3人は現在、「総裁の賛同者」に転じたという。一方、一貫して金融緩和拡大に反対し続けているのがエコノミストの木内登英氏だ。木内氏は日銀が掲げるQQE(質的・量的金融緩和)を「2年以上続けてはならない」とし、構造改革により重点をおくべきだと主張している(FT)。

 また、議事録によれば、反対派委員からは、すでに金利が歴史的な低水準であることなどを念頭に、「追加緩和をしても経済・物価に対する押し上げ効果は大きくない」「金融緩和によって得られる利益はコストに見合わない」などの意見が出たという。

◆「黒田総裁の武器は尽きようとしている」

 日本在住の米経済ジャーナリスト、ウィリアム・ペセク氏は、ブルームバーグに『日本の選択肢はなくなりつつある』というコラムを寄稿した。

 ペセク氏は、解散総選挙によってアベノミクスは停止し、「第3の矢」である構造改革は遅々として進んでいないと記す。そして、アベノミクスの成功のためにあらゆる努力をすると宣言している黒田総裁については、「彼の戦いの武器は尽きようとしている」と辛口だ。また、「日銀は財務省のATMのような役割を果たしている」と皮肉を込める。

 同氏は、木内氏ら反対派の主張の中心は「安倍首相は規制緩和にもっと真剣になるべきだ」というものだとし、それこそが日本経済再生のための「答え」だと記す。そして、「12月14日の選挙結果がどうなろうと、首相はもっと素早く動かなければならない」としている。

Text by NewSphere 編集部