「日銀は、国民の手にお金を渡せ」 不調アベノミクス復活施策、海外コラムニスト論じる

 7-9月期の日本の実質国内総生産(GDP)の速報値が17日に発表されたが、多くの予想を裏切って前期比マイナスとなった。これで4-6月期から2期連続でのマイナスである。2期連続のマイナス成長をもって景気後退とする定義は広く用いられている。再び景気後退に陥った日本を救うために、いま安倍政権には何ができるのか。海外メディアのコラムニストが大胆に論じている。

◆アベノミクスはもう通用しない?
 ブルームバーグのオピニオンサイト「ブルームバーグ・ビュー」のコラムニスト、ウィリアム・ペセック氏は、「日本政府は発想を変える必要がある」と提言する。日本政府は慎重で、世論を絶えず気にしており、(経済問題で)大胆な政策決定を行わない。海外の政策を後追いしているように見える。しかし政府は、日本経済の立たされている苦境が、前例のないものだということを忘れている、と氏は指摘する。

 具体的には、人口減少と高齢化が進んでいること、国の債務残高がGDPの2.5倍もの規模に及ぼうとしていることなどだ。教科書通りの基本的な経済学では、もはや、このような状況を抱えた日本には適合しない。日本政府はデフレ脱却の道を自ら切り開く必要がある。政府が真に創意に富むようにならないかぎり、「失われた」数十年は今後何年も尾を引くだろう、とペセック氏は語る。

 ペセック氏がアイディアの例として挙げているのは、氏が「日銀デビットカード」と呼ぶ、ある種のベーシックインカム制度である。例えば1年当たり8千ドル(約94万円)分を、(貯蓄には回せないように)年内に使う場合のみ有効としたカードである。これは英オックスフォード・エコノミクスの資産運用部門ディレクターのガブリエル・スタイン氏の提案だそうだ。「人々が消費を始めるように、(中略)銀行ではなく、人々の手にお金を渡せば、デフレを終わらせられる」とスタイン氏は語ったという。

 他には、韓国の例に倣い、企業の内部留保に課税することや、貸し付けを行わず、国債として溜め込んでいる銀行に課税すること、また日本中で売りに出されている土地・建物資産を、日銀が高額で買いあさることが挙げられていた。

◆アベノミクスの前に立ちはだかる壁とは?
 ロイターのコラムニスト、ジェームズ・サフト氏は、アベノミクスは結局、無駄に終わるかもしれない、と悲観的だ。これまでの取り組みにもかかわらず、日本は景気後退に陥った。今後の対応策についても、今までと変わりばえしないものが考えられている。だが、これまでの取り組みが、どうしてうまく行かなかったのかという疑問に答えていない、と氏は指摘する。サフト氏が原因だと考えているのは、人口減少と急速な高齢化という日本の人口問題だ。

 アベノミクスの基本的な考え方は、円安によって国内投資が促されるだろうということと、また他の方策と相まって、円安が消費や投資を先送りするデフレ心理を終息させるのに役立つだろう、というものだ。しかし、現在の日本の人口問題のもとでは、この解決策は有効ではなくなるかもしれない、とエコノミストのエドワード・ヒュー氏が示唆しているとサフト氏は伝える。

 サフト氏はさらに、経済学者アルビン・ハンセン氏の見解を紹介する。それによると、会社が設備投資を増大させるにあたっては、単に金利が安いことではなくて、利益と市場成長のどちらもはっきり有望だと見なすことが必要であるという。

 ところが日本企業は、サフト氏が言うには、家庭の購買力の低下で国内市場が冷え込んでいることばかりでなく、日本の人口が減少していることと、人口動態のために消費行動が変化している真っ最中であることを、よく承知している。これでは国内で投資する気にはならないだろう、というのだ。

 これらの状況下で、金融あるいは財政政策のいずれかでできそうなことは、たいしてない。つまるところ、日銀は紙幣を刷れるが、日本人は刷れない。まして思いきり消費することをいとわない日本人は、と氏は語る。そして、結局、現在のアベノミクスが引き続き行われるだろう、と推測している。

◆そもそも経済政策ではどうにもならない?
 サフト氏同様に悲観的なのは、「ブルームバーグ・ビュー」のコラムニスト、ミーガン・マカードル氏だ。20年以上に渡る日本の長期不況の中、そこから脱出するために、日本では何度も政策変更が行われてきた。アベノミクスはその最新のもので、これらの改革の中でおそらく最高のものだった、と氏は語る。しかしそれにもかかわらず日本は景気後退に陥った。

 その原因の中心は、マカードル氏もやはり、日本の人口問題だと考えているようだ。どんな良い経済政策でも、達成できることには限界があるのかもしれない、と氏は語っている。

 人口問題は日本だけのものではなく、世界全体が同様の傾向にあると氏は語る。最富裕国の生産力の伸びは、第2次世界大戦後の数十年間に比べてゆるやかになっている。しかし財政面からの景気刺激策ではそのことを解決できないだろう。財政政策、金融政策は、生産における一時的な不安定を取り除くことができる。だが、それらだけで経済の生産力を向上させられるとはとても考えられない。結局のところ、財政、金融刺激策は、長期の成長の問題よりも、一時的な危機を処理するのに適した手法である、と氏は語っている。

 総じて現状のアベノミクスに悲観的な論調である。背景には、人口減少が進む日本では、経済成長政策にも限界がある、という考え方がありそうだ。

Text by NewSphere 編集部