“メリットなき円安”に国内外で危機感広まる 強気発言は黒田総裁だけ?

 日本時間24日午前、安倍首相はニューヨーク市内のホテルで記者団に対し、急速に進んでいる円安について、「地方経済に与える影響をしっかりと注視したい」と述べ、推移を見極めて対応する考えを強調した。

 また、フィナンシャル・タイムズ紙が最近行ったインタビューで甘利経済財政担当相は、急な円安は日本経済にとって好ましくない、と述べたという。

【円安の状況】
 18日の東京外国為替市場では、円相場が一時、約6年ぶりとなる1ドル=108円70銭台をつけた。19日には109円台に乗せ、2008年8月以来の水準までドル高円安が進んだ。

【円安のメリット・デメリット】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、円安による輸入価格の上昇は、来年までに持続的な2%の物価上昇を実現したい日銀にとっては、目標達成が容易になるかも知れないが、一部の企業や消費者にとっては打撃であり、さらに円を下落させることの利点は不明だと述べる。

 他方、円安は輸出価格を押し下げる筈だが、同紙によれば、「大方の予想に反して、円安はまだ輸出を拡大させていない。18日に発表された統計では、8月の貿易収支は26カ月連続での赤字となり、輸出不振が強調された」という。

【元日銀副総裁の懸念】
 ブルームバーグが行ったインタビューの中で、元日銀副総裁の岩田一政日本経済研究センター理事長は、今の円安は行き過ぎとの見方を示し、現在の情勢では円安が「自国窮乏化」につながる、と警告している。

 これに対して、日銀の黒田総裁は19日、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席するため訪れたオーストラリアのケアンズで、「今の動き自体について何か大きな問題があるように思っていない」と述べたという。

【TPP交渉にも影響か】
 フィナンシャル・タイムズ紙によれば、24日の東京外国為替市場は、冒頭の安倍首相の発言の影響で、海外短期筋を中心にドル売りが優勢となり、一時108.46円まで円が値上がりした。

 同紙は、シティグループ証券のチーフFXストラテジストである高島修氏の見方を紹介している。高島氏は、円安に対して株高が出遅れていることもあって、最近、日本国内では円安に批判的な論調が強まっており、甘利大臣も急激な円安に警戒感を表明し始めている、と述べる。

「重要なことは甘利大臣がTPP交渉の責任者であることだ。米国では11月に中間選挙も控えており、非常に厳しい交渉となっていることは想像に難くない。甘利大臣が円安に敏感になっている一つの理由だろう」。

 高島氏は続けて、「この首相発言もTPP交渉が佳境を迎えていることを考慮(すれば)、特に違和感はない」と述べている。

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Text by NewSphere 編集部