6月の実質賃金大幅減 米紙、アベノミクスの先行きを不安視 格差拡大にも懸念

 厚生労働省は7月31日、6月の毎月勤労統計調査(速報値)を発表した。それによると、基本給に残業代・ボーナスなどを合計した「現金給与総額」は前年比0.4%増の43万7362円で、4ヶ月連続の増加となった。しかし、物価の影響を加味した「実質賃金指数」は前年比3.8%のマイナスと大幅に下落した。海外各紙は「賃上げは依然、お預け」(フィナンシャル・タイムズ紙=FT)、「予想を下回った」(ブルームバーグ)、「6月になってスローダウン」(ウォールストリート・ジャーナル紙= WSJ)と、いずれも後者の数字を重視して日本の景気に低調な評価を下している。

【インフレが家計を食い荒らす】
 実質賃金指数の3.8%減は予想の0.8%増をはるかに下回り、2009年12月以来、5月につづいて最も急激な下落となった。FTは、円安や消費増税の影響で物価が上昇している状況を「ここ30年余りで最も急激なインフレ」と記す。そして、日本の労働者の収入が「インフレに食われている」と表現。0.4%程度のわずかな賃金アップでは、急激な物価上昇には到底追いつかないという現実が浮き彫りになった。

 ブルームバーグは、これに加え、6月は小売業の売上と家計消費も下がり、工業生産は2011年3月の震災以来、消費増税を受けて最も下がったと記す。第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、「賃金の上昇はまだ中小企業にまで広がっていない。本当の意味で賃金が上がらなければ、デフレが終わったとは言えない」と指摘。表面的なインフレと同時に、いまだデフレの残滓も色濃いというのだ。

 WSJは、現在もスタグネーション(停滞)は続いており、アベノミクスが目指すゴールを危うくさせていると危惧する。しかし、厚労省関係者は同紙の取材に「今回のデータはあくまで予備的な速報値であり、賃金の上昇が止まったと結論付けるのは時期尚早だ」と答え、まだ望みを捨てていないようだ。

【賃金アップはごく一部の大企業だけ】
 景気がいいのはごく一部の大企業の重役や正社員だけだと言えそうだ。昨年過去最高の1兆8200億円の収益を挙げたトヨタは、役員報酬を19%上げた(ブルームバーグ)。FTは、トヨタ、ホンダ、東芝などは春闘で高いベースアップを獲得したが、ほとんどの企業の経営者にはデフレの習慣を取り払う勇気はなく、給与をはじめとする固定費を上げる機運は見られないと論じている。

 日経が行った大企業への調査では、夏のボーナスは8.5%上昇する見込みだ。経団連も30日、夏のボーナスは7.2%増で1990年以来最大の上げ幅だと発表した。しかし、これも大企業に限ったことになるだろうとWSJは示す。

【増えたのは非正規の雇用ばかり】
 雇用が増えたという数字もあるが、WSJは増えたのは主に低賃金の非正規雇用の仕事で、いわゆる「正社員」になるチャンスはむしろ減っているとしている。「5月には一旦正規雇用が増えたが、6月にはまた2008年以来の減少傾向に戻った」と指摘。「日本企業は非正規雇用の労働者を使うことに慣れすぎてしまったため、変化には時間がかかる」という厚労省関係者の言葉を紹介している。

 見かけの好況感とは裏腹に、実質賃金は減り格差は広がるばかり、というのが主な海外メディアの見方なようだ。

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Text by NewSphere 編集部