プレイヤーの考え方や意見だけでなく現実の行動までも変えられるゲームとは?

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著:Lindsay Graceアメリカン大学コミュニケーション学部 Associate Professor of Communication, Director, American University Game Lab and Studio)

 1904年にリジー・マギーが特許を取得した『The Landlord’s Game』(地主ゲーム)は、財産所有に関するボードゲームで、土地収奪のシステムが借地人を貧しく、財産所有者を裕福にするようにできているかをプレイヤーに教えることを特定の目的としている。のちに傑作ゲーム『モノポリー』として大量生産されたこのゲームは、今日「パースウェイシブ・プレイ」(説得プレイ)と呼ばれるものが世に知られた最初の例だった。

 ゲームはオーディエンスを説得する絶好の場だ。なぜなら、プレイヤーはただゲームのメッセージを聞いたり読んだり理解したりしているだけでなはなく、ゲームに参加しているからだ。ゲームをするにあたり、プレイヤーはルールを受け入れ、設定された体験の中で行動しなければならない。つまり、ゲームは我々の考え方だけでなく、最終的に行動も変えることができるのだ。

 私が指導するアメリカン大学のゲームラボとスタジオ(Game Lab and Studio)では、さまざまな説得戦略を検証してプレイヤーの反応を測定するために、さまざまなパースウェイシブ・ゲームを制作している。我々は、配達ドローンを使うことの問題を明らかにしたり、文化的理解を促進したり数学の理解度を評価したりするゲームを開発している。

ゲームで学ぶ数学

 我々は、教育と医療の枠を越えて活動の幅を広げている。ナイト財団の支援を受け、我々はニュースの問題に人々を強く惹きつけるためにゲームとジャーナリズムを結びつける方法を調査している(編注:ナイト財団は原文が掲載されたニュースサイト『The Conversation』アメリカ版に出資している)。人々と報道機関が本当のニュースと嘘のニュースを見分ける訓練になる我々の最新ゲームが現在公開中だ

◆ゲームから行動を学ぶ
 パースウェイシブ・ツールとしてのゲームを語る際、「読者は読む、視聴者は見る、プレイヤーは行動する」という考え方を私はよく用いる。新しいゲームを覚えようと座ったときに、これからプレイする人がたいてい「何をすればいいの?」と訊くのは必然なのだ。パースウェイシブ・プレイは、ただ読んだり見たりする以上のことをする機会を提供してくれる。人々は、基礎から役に立つ方法ゲームの主題に取り組むことができるのだ。

 我々のゲーム開発で、複雑な話題に対する人々の理解を深め、彼らの考え方を変え、身の回りの出来事を批判的に考える手助けをしたいと考えている。

 一例として、ゲームラボのロバート・ホーン助教授は、アメリカ国立精神衛生研究所と協働で薬に頼らない不安神経症治療としてのゲームを制作しており、現在臨床試験中である。『Seeing the Good Side』(よい面を見る)というタイトルのそのゲームで、プレイヤーは細かく描写された教室の中から隠れた数字を探す。プレイヤーは、不安をかき立てる誰かの怒った顔に集中するのではなく空間全体を見渡すことで、心を落ち着ける訓練をする。

 ほかにも、ゲームでストレスを解消できる例がある。教育試験サービス(ETS)と共同で行った最近の研究で、選択式標準テストの代替として我々が開発したゲームによって、学生たちがより前向きにテストに臨むようになったことがわかった。また、学生たちはさらに能力を発揮することができた。

◆ニュースを題材にしたゲームの開発
 パースウェイシブ・プレイは教育と医療の分野で最も普及しているが、他の分野でも普及し始めている。我々は、ゲームデザイン技術を人々の関心をニュースに向けさせるために使うことに取り組んでいる。また、閲覧者をニュースウェブサイトに惹きつけてつなぎとめるために、実例から得られる教訓をゲームに脚色することを提案している。

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通勤チャレンジゲーム American University Game LabCC BY-ND

 我々が携わったプロジェクトのひとつに、WAMU(ワシントンD.C.にあるナショナル・パブリック・ラジオの系列局)のゲーム制作がある。このラジオ局は市内の公共輸送(主にDCメトロの地下鉄運行)のトラブルについて放送していた。我々はリスナーがそのテーマにもっと関心を持つようなゲームを開発した。

 WAMUは、ベテランレポーターのマギー・ファーレイ氏を現地に送り込み、さまざまなメトロの乗客にインタビューして体験談を聞いた。我々はその体験談を集めてひとつの物語にして、プレイできるようにした。我々が制作したゲーム『Commuter Challenge』(通勤チャレンジ)のプレイヤーは、DCメトロ沿線で働く低賃金の労働者として地下鉄システムの中で1週間過ごさなければならない。

 プレイヤーが直面する「労働者は、時間までに託児所へ迎えに行くために値の張るタクシー相乗りサービスを選ぶべきか。それとも、延長料金を課せられる危険を冒しても電車に乗って節約するべきか」「労働者は、電車は15分遅れというアナウンスを信用するべきか。それとも、電車の運行停止を理由に残業を断るか」という問題は、レポーターが人々から聞いた現実世界の二者択一と同じものだ。プレイヤーは、資金が底をついたり遅刻で仕事をクビになったりせずに1週間を過ごせるよう、家族、仕事、金銭的需要のバランスを取らなければならない。

◆新世代のゲームの可能性
 WAMUによると、このゲームは同局のウェブサイト内の他のメトロ関連の記事の4倍以上の閲覧数を記録したという。そして、閲覧者は通常のニュース報道を読んだり聞いたりする時間の4倍をゲームに費やした。人々は、メトロ利用者の身に降りかかる災難を、ニュースよりもゲームを通して知りたいと思ったようだ。

 最近、我々は『Factitious』(作為的)というゲームをリリースした。簡単なクイズのような仕組みで、プレイヤーに見出しと記事を提示し、末尾には記事のソースのリンクが表示される。プレイヤーはその記事が本当のニュースか嘘のニュースか判断しなければならない。プレイヤーには正解と判断力アップに役立つヒントが知らされる。このゲームで、プレイヤーは疑いの目を持って読むことと、何を信じるか決める前にソースをチェックすることの重要性を学ぶことができる。

 さらに、ニュースが本当か嘘かどれだけの人が理解した(または誤解した)か、判断を下すまでにどれだけの時間がかかったかが、記事ごとにわかるようになっている。見出しや画像や本文を変えることで、プレイヤーの反応がどのように変わるかを監視でき、そのような要素が読者の理解にどう影響するかを報道機関に報告することができる。このようなゲームが、一般市民から率直なフィードバックを得るためのモデルとなることを期待している。

 土地収奪の欠点を説明することがオリジナルの『モノポリー』の狙いだったが、現代のパースウェイシブ・プレイにはより大きな見込みがある。パークプレイスにホテルを建てるのにかかるより短い時間でプレイヤーについて学び、その考え方を変え、行動を改めることが、この新世代のゲームの狙いなのだ。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Naoko Nozawa

The Conversation

Text by The Conversation