日本の名刺文化を揶揄? 比女優に非難殺到 日本の名刺交換はユニーク?

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 日本には、欧米に比べて独特の礼儀作法が多い。中には、現代には必要ないのではないか思われる習慣もあり、その一つがビジネスの場面で行われる名刺交換だ。

 欧米でも名刺を交換する場合があるが、日本の名刺交換はビジネスの場面では欠かせず、さらに、いくつかのルールが存在するところが異なる。例えば、両手で差し出す、相手の名刺を受け取ったら拝見し、ミーティングなどで目の前に机がある場合は机の上にいただいた名刺を置いておく、など仕事をするようになると見て覚えたり、上司から注意されながら学んだりするビジネス上の常識がある。

◆海外にも良く知られる名刺交換エチケット
 今回、この名刺交換について、フィリピンの女優でモデルのイザベル・ダザさんがインスタグラムのストーリー機能にアップしたビデオが、「日本の名刺交換の文化を尊重していない」としてネットユーザーから非難された。

 このビデオでは、妹のアバさんが両手で差し出している名刺をイザベルさんが受け取り、直後に握りつぶしてアバさんに投げつけているもので、コメント欄には「名刺をこうして渡してくる人には、こうやってやりたい」と綴られている。

 著名人である彼女には、連絡先を渡してくる人が何人もいるだろうから、必死に両手で渡されても逆に困る、迷惑だ、というところが本音なのだろうが、動画を見たユーザーからは、日本では相手を尊重するために両手で渡している、(名刺を投げ返すという行為は)日本の文化を冒涜する行為であり、もっと他国の文化に対してセンシティブになるべきだと批判のコメントが寄せられた。イザベルさんは後に、「日本人でもない妹がこのようにして渡してくるのが嫌だ。プライベートなジョークだった」としているが、やや苦しい言い訳という感が否めない。

 しかし、注目したいのはイザベルさんのビデオではなく、ネットユーザーが彼女のインスタグラムに寄せた批判だ。日本の名刺交換の習慣が海外でも知られていることを表していることに他ならない。

◆欧米と日本とのビジネスのやり方の違いが名刺交換に反映?
 欧米でも名刺交換をすると前述したが、例えばアメリカを例に取り上げると、名刺交換には日本のような儀礼的な側面がない。ビジネスの際に名刺交換より大切なものは握手。それも、相手の目を見ながら、ぎゅっと一瞬だけ固く握るのが誠意を表すということで、良い第一印象を作るために面接を受けに行く場合や新入社員用に握手の仕方を説明するウェブサイトやセミナーなどもある。名刺を持っている人も多いが、相手が出してくる場合には出す、または、今まで連絡を取ってなかった番号やアドレスに連絡が欲しいときに「ここまで送ってください」と言いながら渡すことが多い。もらった方は、「ありがとう」と言ってすぐさまひっくり返し、裏面に〝資料をいついつまでに送る“などというメモ書きを取ったりする。ある意味、合理的だ。

 ニューヨーク市に拠点を置くビジネスと技術ニュース専門ウェブサイト、ビジネスインサイダーでは、記者が日本に出張に行った際に名刺を持って行かなかったために日本でビジネス関係の人と会うたびに謝り続けなければいけなかったという記事が掲載されている。また、名刺交換をするためにパーティの会場に入らず、入り口で待つビジネスマンたちのくだりには思わず笑ってしまうが、それだけ名刺交換が大切なビジネスの一面となっているのをこの記者は目の当たりにしたと言えるだろう。

 日本では、“まずは名刺交換”からビジネスは始まる。やや大げさだが、名刺交換には、礼儀を大切にする日本と合理性を重んじるアメリカのビジネスのやり方の違いが表れているのではないだろうか?

◆名刺交換は必要ないのか?
 デジタルの時代にアナログな名刺交換は必要なのか、と思うが、ビジネスには礼儀と合理性の両方が必要である。名刺交換の際には、「尊敬するという人間の感情を交換」していると書くのは、若いエグゼクティブやその候補生にビジネスマナーなどを伝えることを目的とするウェブサイト、エグゼクティブ・インプレッションズだ。このサイトはアメリカ発ではないが、表面的ではない日本の名刺文化の精神を説いている。

 また、最近ではクリエィティブな仕事を中心に、変わった名刺も作られるようになり、その会社や個人の個性が名刺から伺い知ることが出来、そこからビジネスへ発展していくこともあるようだ。

 合理性だけを考えると、友人同士がするようにLINEのQRコードを読み取るだけじゃダメなの?と思ったりもするが、やはり“ダメ”なのだろう。

Text by 西尾裕美