多様で優れた組織を作る「ブラインド採用」とは? 偏見なくすため情報をシャットダウン

PhotoMediaGroup/shutterstock.com

 グローバル人事・採用専門誌「ヘイズ・ジャーナル」の最新号によると、履歴書や職務経歴書から名前や性別、年齢、学歴などの情報を除外して、能力のみで評価して採用する取り組み、「ブラインド採用」を取り入れる企業が増加しているという。

◆ブラインド採用の狙いとは
 「ブラインド採用」は採用者が無意識の偏見から解放されダイバーシティ(多様性)を促進させるとされている。ブラインド採用の目的は、選考の過程において職場の多様性推進の妨げになる無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)や先入観が入り込まないようにするためだ。

 ヘイズのダイバーシティ責任者、イヴォンヌ・スミス氏はこうした点について、「無意識の偏見というものは誰にもあります。突き詰めると、これは相手を自分と同じグループに属する人間と見るかどうかという点に集約されます。例えば、自分と同じ人種の名前かどうか、自分と同じ大学に通っていたかどうかで、感じ方が変わります。しかし、採用や昇進、新規プロジェクトの提案といったキャリアの節目となり得る重要な分岐点において、そうした先入観が今後のキャリアや可能性を大きく左右し兼ねない状況をひき起こすかもしれません。」と警告し、採用時の判断に影響を与え得る、無意識の偏見について喚起を促している。

トロント交響楽団でのブラインド採用の活用
 ブラインド採用が実際に取り入れられたのは1980年で、いち早く取り入れた組織の1つがカナダのトロント交響楽団だった。それまでメンバーのほとんどは白人男性で占められており、多様性に取り組む必要性を認識した楽団では、新規メンバーのオーディションにおいて、従来とは異なるやり方を試みた。審査員はスクリーンの後ろに座り、入団希望者の演奏だけが聞こえるようにしたのだ。志願者を直接見ることはできなくなり、ハイヒールを履いていても音で認識できないように、床にはカーペットまで敷かれた。

 その結果、それまで全員が白人男性だった楽団メンバーは男女ほぼ同数になると同時に多様性が大幅に高まり、オーケストラが目指す音に近づくことが可能となった。

◆多様性の効用
 多様性に富んだ組織の方がより優れた業績を挙げていることは、次第に多くの組織に認識されるようになっている。マッキンゼーのダイバーシティに関するレポート「Diversity Matters」によれば、多様性の実現において上位25%の企業は下位25%の企業に比較すると、性別の多様性については15%、民族・人種の多様性については35%、財務パフォーマンスが上回っていることが明らかになっている。

◆ブラインド採用は魔法ではない
 しかしスミス氏は同時に、ブラインド採用を取り入れたからと言って、ダイバーシティの問題がすべて、魔法のように解消されるわけではないと警鐘を鳴らしている。

 こうしたブラインド採用の利点を最大限に生かすためには、採用に関わるマネージャーが、研修などの機会を通じて自分たちの中にある無意識の偏見を認識し、重要な判断や選択を行う際に、そうした偏見や先入観をしっかりと意識してうまく対応する方法を身に付ける必要があるだろう。

Text by 酒田 宗一