従業員のやる気、離職は上司次第 求められる上司と悪い上司とは?

resignation

 少子高齢化、人口減少により労働力人口が減ることが懸念されている。特に、過酷な労働環境や精神的な負担の大きな職種では退職者が増えることで人材不足が深刻化することになる。

 人材不足を補うには人材の採用をまず考えるが、退職させない努力も必要だ。採用と育成コスト、企業の評判などを考えれば、人を辞めさせないほうがメリットの大きい時代になったのではないだろうか。そのためには「辞める」理由を知る必要がある。

◆把握しづらい「退職理由」
「社員の退職」のなかでも若年層の早期退職は、採用と育成コストを考えると、会社側は損失と受け取るだろう。しかし、その理由を考えるより先に、補充社員の早期獲得に動いてしまう。理由を探るのは時間の無駄との認識もあるだろし、理由は充分に承知しているということもあるかもしれない。
 
 求人求職情報サービス会社のエン・ジャパンの調査(2013年)によると、退職者は円満退社に配慮してか、“建て前”と“本音”を使い分けているようだ。建て前の退職理由としては「家庭の事情」(回答率32%)、「仕事内容」(25%)、「体調」(11%)が上位の3つ。一方本音の上位3つはというと、「人間関係」(26%)、「社風や風土」(18%)、「仕事内容」(16%)となる。どこの会社も退職理由を本人からか、あるいは上長を通して把握していると思うが、真実を認識できていない可能性もある。

 厚生労働省は毎年の雇用動向調査の際には、転職者の前職の退職理由も調べている。平成27年の結果によると男性は「給料等収入が少なかった」(10.5%)、「労働条件が悪かった」(10.5%)、「会社の将来が不安だった」(7.3%)。一方女性は「労働条件が悪かった」(13.8%)、「職場の人間関係が好ましくなかった」(12.2%)、「給料等収入が少なかった」(10.0%)がそれぞれの上位3つ(会社都合と定年・契約満了を除く)。退職理由から賃金関連を除くと、人間関係を含めた職場環境が大きいと言えそうだ。男性でも「職場の人間関係が好ましくなかった」の回答は6.7%で4位にきている。

「職場の人間関係」の問題とは、上司との関係か、同僚との関係なのか退職者によっても異なるだろう。あと一歩、退職理由についての調査と洞察が必要だ。

◆イギリスやアメリカの退職理由
 イギリスの人事コンサルティング会社のOPPは、Institute of Leadership and Management(ILM)の調査結果から退職理由を次の5つに要約している。①キャリアアップの機会(回答率59%)、②給与等の向上のため(56%)、③興味が持てる仕事を求めて(50%)、④よりよい経営・指導環境で働く(30%)、⑤スキル習得やスキル開発のため(27%)。これらの改善・強化が、退職の抑制につながるとしている。見たところ、積極的な理由による退職が多いようにも見受けられる。

 アメリカの調査会社のギャラップが、7,272名の米国成人を調査した結果が興味深い。「上司(マネージャー)が従業員のやる気の70%と関係している」というのだ。その事実を踏まえた上でギャラップは「定期的なコミュニケーションが部下のやる気につながる」、「上司は部下の強みを開発する必要がある」と提示。仕事でミスをした社員はそれだけで落ち込むが、好ましくない上司は追い打ちをかけ、その負の感情を家にまで持ち帰らせてしまう。言わば「ワンツーパンチ」的な悪い効果だとする。優秀な上司は部下によって必要な指導方法が異なることを知っていて、目標も課題も相手に合わせて設定・管理をしていると結んでいる。

◆アメリカ人からみた「悪い上司」とは?
 ビジネス情報を届ける情報サイト『Entrepreneur』は、アメリカの常時雇用者を調査したSecond City Worksの報告から「悪い上司」の典型を、次の6つに表している。

①上長という特権から働かせる一方で、進捗状況の報告はまめに要求するが、指導者やトレーナーとしての機能を果たしていない上司
②オフィスに不在がちでランチミーティングのときなどに顔を合わせる程度。メールへの応答も少ない幽霊のような上司
③部下からの新しいアイデアや改革には否定的で、曖昧な基準をそのままにしておきたい上司
④上長というよりも社員と友だち関係を重視するような上司
⑤場所や状況をわきまえずオブラートに包むことなく言動し、人を怖がらせても平気。一方、自分のジョークなどで人のミスを誘っても、謝ってすませてしまうかそれも稀。明け透けな叔父さんのような上司
⑥知識も論理も豊富に持ち、その習得に余念がないが、それを社員のために使うことなく、社員たちがその業務方針などに異議を唱えても修正方法を知らない学者のような上司

 日本、イギリス、アメリカの雇用者の退職理由の調査結果を見てきたが、調査対象や質問内容によって異なる回答になるので、その国の退職事情の違いを反映しているとは限らない。しかし共通項としては「社員はよりスキルやキャリアを高めたいと考えており、それを引き出すのは上司」であると言えそうだ。

 ひとつここで強調したのは、その上司も経営者の部下であるということ。つまり優秀な社員は上司が育てるが、その役割を担える上司は経営者が育成しなければならない。上司(管理職)は単に経営者の実行手段であってはならないということだ。前述の悪い上司の典型6つは、経営者にも当てはまるのである。

Text by 沢 葦夫