過労死撲滅に向けた働き方改革は、日本経済に悪影響か

 電通の一連の問題をきっかけに、働き方改革は喫緊の社会課題として認識されている。毎日新聞によると、21日には高橋まつりさんの母幸美さんが安倍首相と面会し、実効性のある働き方改革を求めたことに対し、首相が「何としてでもやる」と決意を示したという。

 政府の強い決意とともに改善に向かう働き方改革であるが、その働き方改革が日本経済に悪影響を与えるという指摘がある。CNBCの報道によると、ドイツのメガバンク、ドイツ銀行(Deutsche Bank)は、長時間労働による過労死撲滅への日本の取り組みは経済成長に重くのしかかる、との見方を示している。その要因として、残業カットは世帯所得、企業収益、経済の潜在的生産高の低下に繋がる点を指摘している。また、帰宅時間が早まることによる消費拡大についても、金銭的な余裕がなく期待できないとしている。ドイツ銀行は日本の経済成長予測を2017年は従来予測の1.1%から1.0%に、2018年は従来予測の1.4%から1.1%に切り下げている。

 アベノミクスにとって働き方改革は重要なテーマだ。第一回働き方改革実現会議で安倍首相は、「長時間労働を是正すれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性、高齢者も、仕事に就きやすくなります。経営者は、どのように働いてもらうかに関心を高め、労働生産性が向上していきます。働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段であると思います。」と語り、社会問題としてだけでなく、経済問題として取り組むことを語っている。また、働き方改革が、若年層の将来展望を明るいものとし、中間層の消費拡大や出生率の改善にもつなげていくことがポイントであることも指摘されている。

 ドイツ銀行が指摘する、働き方改革が経済成長に悪影響を及ぼす可能性は、短期的には否定できないだろう。一方で、働き方改革は中長期的には労働人口の増加や労働生産性の向上、出生率の向上といった経済成長の基礎を育てることが期待されている。今後働き方改革による経済成長への悪影響が表面化したとしても、短期的な視点だけでなく、中長期的な経済成長への貢献を見据えて、必要な痛みとして受け入れるという心構えが必要なのかもしれない。

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Text by 酒田 宗一