独自に進化、日本の高性能自販機、着々と世界へ進出中 ロシア、中国、ASEAN市場へ攻勢

 設置台数ではアメリカに次いで世界2位ながら、面積当たり密度では世界1位の日本の自販機国内市場は、すでに飽和状態である。そこで従来は管理の問題等で難しかった海外展開が、少しずつ始められている。ダイドードリンコがロシアに進出したのを皮切りに、昨年は経産省の「クール・ジャパン戦略」に乗った東南アジアへのプロモーションが行われた。今月16日には東京で、日本・中国自販機業界サミットが開催される。日本の自販機は省エネ・災害対応・コミュニケーションツール化と、世界に例のない進化を遂げている。すでに海外からの観光客には、現代日本と触れる上での必須アイテムとなっているが海外展開は成功するのか。

◆日本がけん引してきた自販機の歴史、エコはもちろん地域の防災防犯にも貢献
 先月25日に日本コカ・コーラは、「ピークシフト自販機」の全国設置台数が10万台を越えたと発表した(ITメディア5月25日)。夜間電力を活用して、日中でも最大95%冷却用電力を使わないで冷たい飲料を提供するという。日本の飲料自販機1台当たりの使用電力は、この20年間で70%以上削減した。現在260万台ある全国の飲料自販機は、ほぼすべて省エネ型に置換されつつある(日本清涼飲料自販機協議会)。

 コカ・コーラ本社の公式サイトは、東日本大震災の経験が、省エネ技術や自販機搭載の位置情報発信システム等の開発を促進し、自販機が近隣の防災防犯にも役立っていることを世界に紹介している。他にもキリンビバレッジのAED搭載自販機、ダイドードリンコのゲーム付自販機など、飲料販売の枠を越えた多機能化が進んでいる。飲料自販機の歴史はまさに日本がけん引している。
 
◆未開拓のロシアへ 多機能自販機を武器にASEANへ
 年間2兆円の国内飲料自販機市場だが、コカ・コーラやサントリー、キリンビバレッジ等の大手を筆頭に飽和状態といわれ、大手による販売チャネルの寡占競合が進んでいる。先日のサントリー食品による自販機事業部門を含むJT買収はその一例である(ロイター5月25日)。

 自販機が売上の9割近くを占めるダイドードリンコにとって、新たな販売チャネルの開拓は至上命題である。ダイドーはロシアに目を向け、2009年、ウラジオストクでテスト販売を行った。心配された保安管理にも問題がなく、結果が良好だったことから2013年にロシア法人を設立した。昨年からモスクワ市の後押しを得て、駅やホテル、大学、商業施設に設置し始め、3年後には1万台、売上50億円を目標にしているという。

 自販機の販売チャネル多様化も試みられている。昨年には経産省の「クール・ジャパン戦略」の一環として、JR東日本ウォータービジネス社とベンチャー企業とがVENDOR PLATFORM PROJECT FOR ASIAをシンガポールで展開し始めた。デジタル・インタラクティブ型自販機のソーシャルメディア機能に着目し、日本の「カワイイ」雑貨や化粧品等を自販機で買うこと自体をファッションとして提起する試みである。

◆中国へ本格進出する自販機メーカー
 省エネ多機能型自販機は、飲料ベンダー・機械メーカー双方の海外展開の可能性を拓きつつあるが、特に今後期待されるのが中国である。メーカー最大手の富士電機は2月に現地生産を開始、現地オペレーション会社も設立した。主要メーカーもこぞって進出計画を打ち出した(日経2月28日)。間もなくベンダーの進出も本格化するとみられる。

 こうした中、ファイナンシャルタイムズは、今月16日に東京で日中両国の飲料自販機メーカーや、ベンダーが一堂に会するサミットが開催されることを報じた(6月9日)。現在中国国内に10万台と言われる飲料自販機は、北京五輪以後毎年1万台のペースで増加しているといわれ、成長が期待されている。

 日本自販機工業会会長の武田氏は、「中国人は、自販機ビジネスがうまくいくための要素をよくわかっている。これは基本的にサービス・ビジネスである。機械は清潔に保たれ、常に補充され完璧に作動しなければならない。一度でもお金をとって商品を提供できなければ、イメージが破壊されてしまう。中国人は、日本から来たこの産業のそういう面を理解するのに熱心だ」と述べている。

Text by NewSphere 編集部