孫社長、Tモバイル買収を“諦めない”と海外報道 米1,2位打倒に向けた今後の課題とは

 ソフトバンクの米国子会社で、携帯電話・同国3位のスプリントが、同4位のTモバイルUSの買収を断念した。5日のウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道を皮切りに、各メディアが一斉に報じている。協議は順調に進み、金額面でも折り合いがついていたが、米規制当局はこの買収に強く難色を示していたという。今回、スプリントは、現時点でその反対を覆すことができないと判断したようだ。

【どんな取引をしようとしていたのか。また、孫氏の狙いは?】
 この買収が成立していれば、320億ドル(約3.3兆円)もの大型取引になる見込みだった。ソフトバンクは、昨年7月にスプリントを216億ドル(約1.8兆円)で買収・子会社化し、アメリカの携帯電話事業に参入した。

 米携帯電話市場において、1位のベライゾン、2位のAT&Tの加入者数はそれぞれ1億人を超え、合わせると全体の3分の2以上を占める。スプリントはその半数ほど、TモバイルUSはそれよりさらに少ない。ただしTモバイルUSは、斬新な料金プランが好調で、加入者数を順調に増やしている。反対に、スプリントは、このところ加入者の脱退が続いている。

 ソフトバンクの孫正義社長の狙いは、第3位と第4位を合併させることで、上位2社に対抗しうる携帯事業者を作り上げることだった。

【米政府当局はなぜ反対したのか】
 しかし、米連邦通信委員会と司法省は、大企業による寡占が進み、市場の競争が停滞することを恐れて、この買収に反対する構えを見せていた。消費者にとってはサービスの選択肢が減ってしまうことも懸念された。米ニュース専門放送局CNBCのウェブサイトによると、これら規制当局は、ベライゾン、AT&Tと競争する通信事業者が少なくとも2社以上存在することが望ましいと表明していたそうだ。

 連邦通信委員会は、来年実施される予定の携帯電話の電波帯の周波数オークションで、スプリントとTモバイルUSの2社が合同で入札に参加することはできない、とする意向を先週表明していた。これが、この買収は規制当局の承認を得られないだろうと結論づける、とどめの一撃となった、との情報筋の発言をCNBCは伝えている。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、今年、米ケーブルTV最大手のコムキャストが、同2位のタイム・ワーナー・ケーブルを450億ドル(約4兆6千億円)で買収すると発表した。また、AT&Tは、衛星放送最大手のディレクTVを490億ドル(約5兆円)で買収することで合意したと発表した。この2つの大型買収のせいで、オバマ政権は、あまりにも少数の企業の手に、あまりにも大きな力が集中してしまうことに用心深くなっている、と記事は語る。

【交渉を進めて失敗した場合、多額の違約金が請求された可能性も?】
 2011年には、AT&TがTモバイルを390億ドル(当時のレートで約3兆2千億円)で買収しようと試みたことがあった。しかし、規制当局の反対に遭い、断念せざるを得なかった。しかもこのときは、すでに合意を交わした後だったため、AT&TはTモバイルに対して、違約金として40億ドル(同約3100億円)を支払うことになった。

 今回、スプリントとTモバイルが進めていた取引でも、もしも買収が破談になった場合には、10億ドル(約1000億円)以上の違約金を支払う義務が発生するという条件が見込まれていたが、こちらのほうはまだ交渉段階であり、合意前だった。これが交渉中断の一因となったとも考えられる。

【ソフトバンク、スプリントの今後は?】
 けれども、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、孫社長は「今のところ」この取引をストップするものの、TモバイルUSの買収を完全に諦めるつもりはないようだ。規制をめぐる環境、交渉上の立場が改善するまで、待ち続ける決心であると、社長に近い筋が語っているという。

 孫社長は、スプリント単独でも「重要な第3位」になることはできるが、はるかに巨大なライバル企業に打ち勝つチャンスを得るためには、より大きな事業規模が絶対に必要だと、繰り返し語っているという。

 スプリントは今後、単独での事業拡大を期することになる。ニューヨーク・タイムズ紙は、スプリントの財政面に困難を予測している。「通信網を整備するのに大金を費やさなくてはならないだろうが、それと同時に、競争的であり続けるために、料金を下げなければならない可能性も非常に高い」とのアナリストのコメントを紹介している。

 5日のニューヨーク市場閉会後の時間外取引で、スプリントの株価は16%下落したと各メディアは報じている。

 6日、スプリントはCEOの交代を発表した。ダン・ヘッセ氏に代わり、取締役で米携帯電話卸売会社ブライトスターの創業者、マルセロ・クラウレ氏が次期CROに就任する。

Text by NewSphere 編集部