“ゼロ戦”製作の三菱重工、仏大手アルストムに共同買収提案 GEとの対決に海外紙注目

 16日、三菱重工と独シーメンスは、仏重電大手アルストムにエネルギー部門の共同買収を提案した、と発表した。先行提案した米ゼネラル・エレクトリック(GE)の提示額170億ドル(約1兆7300億円)に対抗して逆転買収をねらう。海外メディアは各社の動向に注目している。

【三菱重工、シーメンスの共同買収提案】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、共同買収案では、シーメンスがアルストムのガスタービン製造・サービス事業を、現金約39億ユーロ(約5400億円)で買収する。シーメンス幹部は、同提案はアルストムの電力設備事業を133億5000万ユーロ(約1兆8400万円)超と評価している。

 一方、三菱重工は、アルストムの蒸気・原子力タービン事業の40%、送配電機器事業の20%、水力発電システム事業の20%を取得して3つの合弁事業を立ち上げ、現金31億ユーロ(約4290億円)を投入する計画だと同紙は報じる。事業の経営権はアルストムが維持することになるという。

 ブルームバーグは、火力、原子力、地熱発電所のガソリンタービンや、ポンプ製造が収益の3分の1を占める三菱重工は、かつて日本の“ゼロ戦”を造った、と題して報じている。買収が成功すれば、発電システムという分野で米ゼネラル・エレクトリック(GE)と肩を並べることになる、とみている。

【雇用への貢献を強調】
 また両社は、雇用喪失や技術流出に対するフランスの懸念に配慮し、フランス人1000人分の雇用、仏証券取引所への上場維持、大半の傘下事業の経営権の維持を提案している。シーメンスは「アルストムは強力なブランド力を誇る、エネルギーと輸送の独立したプレイヤーであり続ける」、と述べた(ウォール紙)。

 GEの提案では、アルストムの資産を買い切りGEに統合する。シーメンス幹部は「我々はアルストムを現状のまま維持していく考え。金銭的な問題ではなく、パートナーシップを目的とし、フランスの象徴を守っていくことに意義がある」と述べ、仏政府の支持を得ることをねらっているという(フィナンシャル・タイムズ紙)。

【フランス政府の意向】
 アルストムの事業売却報道は、フランスで政治論争を巻き起こしている、とウォール紙は報じている。アルストムが4月にGEへの事業売却を発表すると、仏政府は国の産業の象徴が失われると警戒感を示し、独シーメンスに対抗案提示を呼び掛けた。日独勢が正式に共同買収を提案したことで、外国の買い手を競わせるというゲームを続けることができる、と同紙は分析している。

 モントブール仏経済相は、GE案は受け入れ難く、フランスの経済的主権を脅かす、と主張しているという。またミシェル・サパン仏財務大臣は、どちらの提案にも優先権はないものの、仏政府としては戦略的とみなされる部門において外国企業の買収を阻止し、雇用と投資を守っていく考えを示した。さらに、「三菱が共同買収案を提案したことで、シーメンスの買収案は改善された。GEも改善案を提示することになるだろう」と、日独勢の参画に一定の評価を示した。

【共同提案に対するGEの対応】
 フィナンシャル・タイムズ紙によると、シーメンスと三菱の共同買収提案の発表直後に、GEは改善した提案内容を追加した。新たに1000人分の雇用保証を追加、アルストムのエネルギー事業の一部にフランスが出資できるようなパートナーシップの考案を申し入れている。

 GEは提案の正当性を主張、今後も関係者との協議を続ける予定だ。自社の提案に自信を見せ、シーメンスと三菱重工での分割はアルストムの痛手との見解を示している。

 ウォール紙によると、アルストムとシーメンスに詳しい複数の関係者によると、アルストム経営陣はすでにGE案を支持しているという。アルストムは、シーメンス・三菱重工の提案へのコメントを避けている。

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Text by NewSphere 編集部