トヨタ、赤字覚悟で水素燃料電池車発売へ イーロン・マスクや米メディアは酷評

 水素を燃料にしたトヨタのFCV(燃料電池車)が来年、日本、北米、ヨーロッパなどで発売される。欧米のメディアも今から高い関心を寄せている。また、アメリカで高い売上を誇る同社の『カムリ』の2015年モデルが、開催中のニューヨーク国際自動車ショーで発表された。こちらの評判は芳しくないようだ。

◆当面は赤字覚悟で市場を開拓か
 燃料電池車は、水素と酸素を組み合わせることによって生まれる電力で駆動する電気自動車だ。排出されるのは安全な水蒸気のみで、充電式の電気自動車に比べて航続距離が長いのが利点だ。市販車としては、ホンダが2008年に『FCXクラリティ』を世界に先駆けてリース販売している。

 ロイターは、トヨタが『2015FC』と呼ぶ発売予定の市販車について詳しく報じている。燃料の触媒に用いる高価なプラチナ材料を大幅に減らすことに成功し、コストダウンに成功したことが、一般販売にめどがついた最大の理由だという。

 また、コイルに用いる銅線を幅広で平らな“フェットチーネ・スタイル”に改良したことにより、モーターの小型化に成功した。それによって燃費とパワーが向上した結果、現在のガソリン車を上回る700kmという航続距離を実現したという。

 販売価格は未定だが、世界でも最も排ガス規制が厳しいと言われる米カリフォルニア州であれば、助成金により「3万から4万ドルの自己負担で買えるかもしれない」とロイターは予想する。しかし、コストダウンを実現した今でも、燃料電池の推進システムだけで5万ドル近くの生産コストがかかるという。そのため、専門家の間では「初期のプリウス同様、トヨタは長期的な赤字も覚悟で市場の開拓に挑むのではないか」と言われている。

◆「買うのがバカバカしい代物」
 比較的好意的な論調のロイターに対し、フォーブス誌のコラムは辛らつだ。同誌は、アメリカ西海岸の水素スタンドの位置を示すグーグルマップのリンク(ロサンゼルス周辺にわずかに4カ所しかない)を掲載し、実用性に疑問を投げかけている。

 同誌が「ネガティブな面」として挙げるのは、おもに燃料補給の困難さだ。新たに水素スタンドを作るには50万ドルから100万ドルかかると実現性を疑問視。「効率的に配置すれば現在のガソリンスタンドよりもずっと少ない数で済む」というFCV支持派の意見にも、「人々はスタンドに行くためだけに、5分から10分のドライブはしない」などと反論する。

 また、生産にエネルギーロスが多いとされることや、高い爆発性といった水素燃料の欠点も指摘されている。ロイターによれば、アメリカのバッテリー式電気自動車メーカー、テスラ・モーターズのイーロン・マスク代表は、「水素燃料電池車はまったくのクソだ。水素は非常に危険なガスだ。高性能ロケットにはふさわしいだろうが、車には向いていない」とこき下ろしたという。

「意味のある販売台数には達しないだろう。なぜなら、買うのがバカバカしい代物だからだ」と、フォーブス誌は結んでいる。

◆カムリについて、コンシューマー・レポートは「まずまず」との評価
 ガソリン車の方では、トヨタは開催中のニューヨーク国際自動車ショーで『カムリ』の2015年モデルを発表した。アメリカでは、乗用車で長年No.1の売上を誇る人気車種なだけに高い注目を集めている。しかし、コンシューマー・レポートが、「際立った変化は見られず、せいぜいまずまずといったところだ」などと低調な評価を下すなど、評判は芳しくないようだ。

 CNNなどの報道によれば、新型カムリはエンジンは基本的に現行モデルと同じだが、外観デザインやサスペンション、ブレーキ、ステアリングの反応性などがよりスポーティーに改良されたという。しかし、抜本的な改良がない中での部分的な仕様変更は「かえって乗り心地が悪くすることもある」と、コンシューマー・レポートの評論家は述べている。いずれにせよ、実際の走行性能や乗り心地が判明するのは、試乗会が開かれる数ヶ月先になるとのことだ。

トヨタ対VW(フォルクスワーゲン) 2020年の覇者をめざす最強企業 [amazon]

Text by NewSphere 編集部